ビジネスフレームワークでデザインが変わる|17年の現場で使う5つの判断軸【若手Webデザイナー向け】

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「このボタン、なぜ青なんですか?」とクライアントに聞かれて、「なんとなく落ち着くから……」としか答えられなかった日のこと、たぶん多くの若手Webデザイナーが覚えています。

私もそうでした。

Web制作を17年やってきて、いまだにビジネスフレームワークを意識しなかった頃の自分を引きずるくらいには。

この記事は、その「なんとなく」を抜けるための話です。

センスでも経験でもなく、判断の土台を5つに分けて持っておくと、デザインは説明できるようになります。

「なぜこの色?」に答えられなかった日のこと

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3年目くらいの頃、地方の不動産会社のサイトリニューアル案件で、私は完全に詰まりました。

クライアントレビューの席でディレクターが画面共有して、向こうの担当が「このメインカラー、なぜブルーグレーなんですか?」と聞いてきた。

頭の中には理由らしきものがありました。

「信頼感が出る」「ブランドカラーと近い」「白との余白が綺麗」。

でも口から出たのは「なんとなく、落ち着くかなと思いまして」だった。

帰りの電車で、思い出すたびに耳が熱くなりました。

あれは「センスがない」のではなく、「自分の判断を言葉にしていなかった」だけだった。当時の自分はそう切り分けられず、しばらく「自分はデザイナーに向いていないのかもしれない」と本気で考え込んでいました。

3〜5年目のデザイナーから話を聞くと、似たような場面の話がよく出てきます。

Figmaは触れる(自分の当時はPhotoshopでした)、AIも使える、トレースもできる。

でも「なぜそれにしたのか」を1〜2分で説明できない。

これは技術の問題ではなくて、判断の手前にあるフレームを持っていない問題です。

Web制作は『意思決定を整理する仕事』だった

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17年やってきて一番大きかった気づきは、Web制作という仕事の正体が「見た目を作る仕事」ではなく「意思決定を整理する仕事」だった、ということです。

「誰向けか」「何を優先するか」「何を捨てるか」を整理して、最後に画面に落とすのがデザイナーの仕事だと、いまの私は思っています。

逆に言うと、整理ができていない案件は、どれだけ手を動かしても通りません。

感覚で作っていた頃の失敗

3年目までの私は、ほぼ感覚で作っていました。

Pinterestを眺めて、雰囲気の近いサイトを探して、なんとなく組み上げる。

出来上がりは悪くない。でもレビューに出すと毎回違う方向に修正が走るんです。

ある通販系の案件では、初稿から納品まで「もっと暖かく」「やっぱり信頼感がほしい」「もう少しポップに」と、A担当・B担当・C担当それぞれの感想ベースで12回くらい往復しました。

原稿は何度も書き直し、色はパステルから濃紺、最後はまた中間に戻る。

心が削れていく感覚を、いまでも覚えています。

問題はデザイン能力じゃなかった。「誰のためのサイトで、何を優先するか」を最初に整理していなかっただけだった。

ロジックツリーで分解したら一気に通った話

ターニングポイントになったのは、別の案件で先輩に「ロジックツリーで一度バラしてみたら」と言われたことです。

半信半疑で、「サイトの目的」を頂点に置き、ターゲット、伝えるべき価値、想定する離脱ポイント、CTA、と4段くらいに分解していった。

すると、自分が作っていた画面に、整合性の取れていない要素がいくつもあることに気づきました。

「20代女性向け」と言っているのにフォントは40代向け、CTAは「資料請求」なのにビジュアルは「カジュアルな購入導線」、みたいな。

整理したものをそのままワイヤーに反映してレビューに持ち込んだら、初稿でほぼ通りました。

修正は3点だけ。

「あ、これか」と腹に落ちた瞬間でした。

デザインの話ではなく、その手前の意思決定の構造化の話だったんです。

ここから少しずつ、ビジネスフレームワークを意識して使うようになりました。

コンサル本のように体系で学んだのではなく、現場の困りごとに合わせて、必要なものを必要な順番で取り入れていった、というのが正直なところです。

5つのビジネスフレームワークをデザインで使う技術

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ここからが本題で、私が17年の現場で「これは要る」と残っているビジネスフレームワークが5つあります。

クリティカルシンキング、ロジカルシンキング、フレームワーク思考、言語化、SMART。

順番に、Web制作のどんな場面で使うかをセットで書きます。

注意点をひとつ。

ここで紹介するのは「コンサル本のフレーム22選」ではありません。

22個も覚えられないし、覚えても使えない。

現場で本当に判断に効くものだけに絞っています。

① クリティカルシンキング — 『要望を疑う』ことで本当の課題を掘る

クリティカルシンキングは、米国の教育心理学者リチャード・ポールとリンダ・エルダーが体系化した思考法で、「前提」「目的」「データ」などを問い直すための知的基準を整理したものです。

難しそうですが、デザイン現場では一言でいうと「要望をそのまま受け取らない」技術です。

たとえばクライアントから「TOPページにアニメーションを増やしてほしい」という要望が来たとします。

クリティカルシンキングを通すと、こうなります。

  • なぜアニメーションを増やしたいんですか?
  • それで何を改善したいんですか?
  • いま想定しているユーザーは、どんな行動をしてほしいですか?

掘っていくと、本当の課題は「アニメーションを増やしたい」ではなく「TOPの離脱率が高いのが不安」だった、というケースが普通にあります。

そうなると打ち手は変わります。

アニメーションを増やすより、ファーストビューの情報設計を直したほうが効くかもしれない。

このフレームは、要望を「疑う」と書くと角が立ちますが、実際は「相手と一緒に問題の本体を探す」作業です。

ここを飛ばすと、クライアントごとに違う方向に修正が走る、あの修正地獄に戻ります。

→ より深く学ぶ: 確証バイアスとデザイナーの判断ミス

② ロジカルシンキング — サイト構成・LP導線を整理する

ロジカルシンキングは、ピラミッド原則を体系化したバーバラ・ミントが1960年代後半のマッキンゼーで開発した、論理を階層化する思考法です。中核にあるのが「MECE」(モレなく・ダブりなく)という分解の作法。

私が一番使うのは、サイト構成とLP導線の設計フェーズです。

順番はだいたい固定で、

  1. このサイト/ページは「誰向け」か
  2. その人に「何を伝える」か
  3. 最終的に「何をしてほしい」か

をMECEに書き出してから、画面要素を当てはめます。

これだけで「なんとなくオシャレ」を防げる。

先ほどのロジックツリーの話も、根本はこの分解です。

若手のころ、ロジカルシンキングは「論理的に話すスキル」だと思っていたんですが、実際は情報を整理するための型のほうがずっと使い道が広い。

デザインに持ち込むときも、説明スキルというより構造の道具として使うほうがしっくりきます。

→ より深く学ぶ: 説明が苦手なデザイナーのためのロジカルシンキング

③ フレームワーク思考 — 『考える順番』を固定する

「フレームワーク思考」と書くと、SWOTや3Cを使う話に聞こえますが、私はもう少しシンプルに使っています。

毎回ゼロから考えない、考える順番を型として持っておく、というだけの話です。

私のWeb制作の型はずっとこれです。

  1. 目的(何のためのサイトか)
  2. 課題(いまの何を解決するか)
  3. ターゲット(誰のためか)
  4. 導線(どこに連れていくか)
  5. CTA(最後に取ってほしい行動)

新規案件でも、リニューアル案件でも、ヒアリングから設計までこの順番でしか動かしません。

デザインを始める前に5つ全部埋まっているかチェックして、埋まらないところは追加で聞きに行く。

順番を固定すると、何が嬉しいかというと、疲れている日でも質が下がりにくい

これは現場で長く回すうえで、案外重要なポイントです。

SWOTや3Cはそれぞれ強力なフレームワークですが、Web制作の現場で毎回出してくるかというと、私は出さない。

「順番の型を持つ」のほうが、回数の多い判断には効きます。

→ より深く学ぶ: 問題解決フレームワークの基本

④ 言語化 — 『なんか良い』を分解する

言語化は、5つの中で一番地味で、一番効きます。

「なんか良い」「もうちょっと高級感を」「もう少し柔らかく」と言われたとき、それをそのまま受け取ると、永遠に修正が終わりません。

これを「何が良いと感じているのか」「何で高級感を出したいのか」に分解する技術が、デザインの言語化です。

たとえば「高級感」を分解するとき、私はいつもこのへんを並べて確認します。

  • 余白の取り方(詰めるほどカジュアル、空けるほど高級寄りに振れる)
  • 書体の対比(ヒラギノ vs 游明朝、ウェイトの差、字間)
  • 配色の彩度・明度(彩度を1段落とすと、いきなり高級感が出る)
  • 写真の温度感(暖色寄りか寒色寄りか、グレインの量)

これを並べて「今回の高級感は、彩度を抑えて余白を広めに取る方向ですよね?」と聞くと、クライアント側も「ああ、そっちじゃなくて書体を明朝にする方向です」と返してくれる。

共通言語ができた瞬間にレビューの解像度が一気に上がるんですよね。

これは認知心理学では「外化(externalization)」と呼ばれて、頭の中の感覚を書く・話すで形にする作業として研究されてきた領域でもあります。

文部科学省も言語活動の重要性を学習指導要領で扱っているくらいで、デザインに限らない普遍スキルです。

→ より深く学ぶ: デザイナーのための言語化トレーニング

⑤ SMART — 曖昧なゴールを判断基準に変える

最後がSMART法則です。

1981年にジョージ・T・ドーランが Management Review 誌に発表した、目標設定の5基準。

原典では Specific / Measurable / Assignable / Realistic / Time-related の5つで、現在よく流通している Achievable / Relevant 版とは原義が少し違います。

これは豆知識として知っておく程度で十分です。

Web制作の現場で使う場面は、ヒアリングのときがメインです。

  • ❌ クライアント: 「とにかく問い合わせを増やしたいんですよね」
  • ⭕ ヒアリング後: 「月20件のフォーム送信、CVR 1.5%以上、3ヶ月以内に達成」

ここまで具体化すると、デザインの判断基準が一気に立ち上がります。

月20件を取りに行くなら、ファーストビューのフォーム導線は強めに、迷わせる装飾は捨てる。

CVR 1.5%を狙うなら、フォームの離脱要因(項目数、エラー文言、確認画面の長さ)に投資する。

3ヶ月で結果を見るなら、A/Bテストの余白も初期から組む。

逆にゴールが「問い合わせを増やしたい」のままだと、デザインは永遠に終わりません。

判断基準がないので、毎回違う方向の修正に振り回されます。

SMARTは目標設定の技術というより、デザインの「終わりどころ」を作る技術だと、現場では感じています。

→ より深く学ぶ: SMART法則で目標設定する技術

フレーム盲信の罠 — ロジックだけのサイトは正しいけど刺さらない

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ここで2つ目の失敗談を書きます。

ビジネスフレームワークを覚え始めた頃の自分が、一番危なかった話です。

5つのフレームが使えるようになってきた4〜5年目ごろ、私は何でも分解して、何でも論理で組み立てるようになっていました。

アパレル系の小さなブランドサイトの案件で、これが裏目に出ます。

  • ターゲット: 30代前半女性
  • 価値訴求: 国産素材・職人技
  • CTA: オンラインショップへの導線
  • 導線設計: TOP→ブランドストーリー→商品一覧→詳細→カート

きれいに分解できて、ワイヤーも美しく整っていた。レビューも論理的には通った。

でも公開後、ブランドのオーナーから「サイトは正しいんだけど、なんか冷たいんだよね」と言われました。

戻って自分のデザインを見直すと、たしかに温度感がゼロでした。

職人が手で素材を扱う質感、ブランドが大切にしている世界観、そういう「感じ」が一切表現されていない。

情報設計としては正解で、ブランド体験としては失敗していた。

ここで学んだのは、ロジックは判断の土台だけど、ロジックだけで作ったサイトは正しいけど刺さらないということです。

フレームワークは「考えるための道具」であって「答えそのもの」ではない。

最後にユーザーの感情・世界観・温度感を乗せるのは、結局デザイナーの感性の仕事として残ります。

ビジネスフレームワークと感性は対立するものじゃなくて、フレームで「何を整理したか」が決まったうえで、感性が「どう表現するか」を決める、という順番の話なんですよね。

このバランス感覚は、フレームを使い倒したあとにしか身につかない気がしています。

判断のもう一歩手前にある「観測の浅さ」については、判断力を観測の浅さから捉え直した記事で別の角度から書きました。フレーム盲信を防ぐ感覚に近い話です。

AI時代の判断軸 — 『作れる人』より『整理して判断できる人』

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ここから少しだけ未来の話を書きます。

AI時代に、ビジネスフレームワークの価値は上がる方向に動いている、というのが現時点での私の見立てです。

World Economic Forum の Future of Jobs Report 2025 では、雇用主の約70%が「分析的思考(Analytical Thinking)」を今後最も重要なコアスキルとして挙げていました。

McKinsey の The state of AI 2025 でも、88%の組織が業務でAIを定常利用しているという数字が出ています。

経済産業省の「Society 5.0時代のデジタル人材育成」報告書(2025年5月)でも、生成AI時代に変化に学び続ける力が必要だと明示されています。

これをデザイナー視点で翻訳すると、シンプルです。

「それっぽい画面」はAIで誰でも作れる時代になった。だから「何を優先するか/誰に向けるか/どこを削るか」を決められる人の価値が上がる

Figma AI、Midjourney、ChatGPT、Claudeを少し使えば、平均点のビジュアルは出てきます。

でも、その案件で本当に大事な要素は何か、捨てるべき要素は何か、ターゲットがどこで離脱するか、これは人間側の判断軸の話です。

AI時代のクリエイター像についてはAI時代のクリエイター・デザイナーのキャリア観でもう少し踏み込んで書きましたが、ざっくり言うと、これからの数年は「作れる人」より「整理して判断できる人」のほうが、効きやすいはずだと考えています。

反論処理: 「まだそこまでの案件やってないから関係ない」への答え

ここで一度、よくある反応に触れておきます。「自分はまだ大きな案件を任されていないから、フレームとか早い」「経験を積んでから考えればいい」という感覚です。

3年目くらいの自分が、まさにそう思っていました。

正直に書くと、これは逆だと感じています。

若手ほど「説明できること」が武器になる、という感覚を、私はその後の14年で何度も確認しました。

シニアのデザイナーは、どれだけ忙しくても「なぜこれにしたか」を1〜2分で話せます。

それができるからプロジェクトリードを任されるし、難しい案件が回ってくる。

逆に、若手のうちから「なんとなく」のまま手を動かしていると、なかなか判断を任されない。

技術が伸びても、立場が変わりにくい。

5年目くらいまでの自分に伝えたいのは、ビジネスフレームワークは「上のレイヤーの話」じゃなくて、「いまの案件を、いまより1段深く考えるための道具」だ、ということです。

これを早めに持っておくと、その後の伸び方が変わります。

判断力をもう少し一般論として整理した話は、判断力を鍛える思考法の全体像で書きました。

本記事はデザイナーの現場特化なので、より広く判断力の話が知りたい人は、そちらと併読すると立体的に見えてくるはずです。

まとめ — 次のレビュー前に、1つだけフレームを意識する

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長くなったので、最後に「次の1歩」を具体的に書きます。

5つのビジネスフレームワークを一度に全部使おうとすると、たいてい挫折します。

次のデザインレビューの前に、1つだけ意識するくらいで十分です。

  • レビューで毎回詰められる → クリティカルシンキング(要望を疑う)
  • LP/サイト構成がぶれる → ロジカルシンキング(MECEで分解する)
  • 案件によって手戻りが多い → フレームワーク思考(順番の型を作る)
  • 「なんか違う」と言われ続ける → 言語化(感覚を分解する)
  • 修正が永遠に終わらない → SMART(ゴールを数値化する)

自分が一番痛い場所に近いものを1つ選んで、関連する子記事を1本ブックマークしてみてください。

次の案件で1回試してみる、そのレビューでうまくいかなかったら原因を1行メモする。

これを3案件くらい続けると、判断の土台が少しずつ厚くなっていきます。

私が17年やってきて言えるのは、デザインは才能じゃなくて、「考える土台」と「手を動かす量」の積み重ねだということです。

土台がないまま量だけ積むと疲弊するし、土台だけあって手を動かさないと身につかない。

ビジネスフレームワークは、その土台のほうの話です。

「なぜこの色?」に答えられなかった日の自分に、一冊だけ送るならこの記事を渡したい、というつもりで書きました。

あなたの次のレビューが、少しでも楽になりますように。

参考文献・原典