要望を聞いた瞬間、答えを出すな|共感とは「決めない」技術

「なるほど、要するに〇〇ですね」

この一言が、すべてのズレの始まりでした。

要望を聞いた瞬間、頭の中でデザイン案が走り出す。

ちゃんと聞いたつもりなのに、後から「違う」と言われる。

そんな経験、ありませんか。私は何度もありました。

そしてずっと、自分のスキル不足や理解力のなさが原因だと思っていました。

でも違ったのです。問題はスキルではなく、要望の扱い方にありました。

なぜ「共感」が一番難しいのか

デザイン思考の5ステップでは、最初に「共感」が置かれています。

でも実務では、このフェーズが一番軽視されがちです。

なぜなら、私たちは要望を聞いた瞬間に「理解した」と感じてしまうからです。

「シンプルにしてほしい」と言われたら、余白を増やすイメージが浮かぶ。

「もっとインパクトを」と言われたら、色を強くするイメージが浮かぶ。

要望を聞いた瞬間、頭の中で解決策が動き始めてしまう。

これは経験があるからこそ起こる現象です。

でも、この「すぐ理解しようとする癖」が、ズレの原因になっていました。

デザイン思考が現場で使えない理由|5ステップを「正解を育てる」視点で再解釈で詳しく書きましたが、教科書通りのプロセスをなぞっても、実務ではうまくいかないことがあります。

共感フェーズはその典型です。

「分かったつもり」の合意が生むズレ

あるプロジェクトで、クライアントから「親しみやすいデザインにしてほしい」と言われました。

私は「なるほど、親しみやすさですね」と返し、丸みのあるフォント、柔らかい配色、イラストを使ったデザインを提案しました。

結果は「違う」でした。

クライアントが言う「親しみやすさ」は、見た目の柔らかさではなく、「専門用語を使わない分かりやすさ」のことだったのです。

曖昧な言葉を曖昧なまま、お互いが自分の解釈で「合意した」つもりになっていただけでした。

このとき気づいたのは、ヒアリングの問題ではなかったということです。

私はちゃんと聞いていました。でも、聞いた瞬間に自分の中で意味づけをしてしまっていた。

それが問題でした。

視点転換:共感とは「決めない」こと

共感とは、相手を理解することだと思っていました。

でも実際は違いました。

共感とは、「分かったつもりにならない状態を意識的に保つ技術」です。

要望を聞いた瞬間に「こういうことだな」と決めない。

曖昧なままにしておく。

これは放置ではありません。

要望を「正解の種」として扱う、能動的な判断です。

この考え方は、正解を探すのをやめたら、人生が動き出したで書いた「正解は最初から存在しない」という視点と深くつながっています。

「親しみやすい」という言葉を聞いたとき、すぐに「丸いフォント」と変換しない。

「親しみやすい」という言葉をそのまま持っておく。

その状態で、さらに情報を集める。

「どんな場面で親しみやすさを感じてほしいですか?」「逆に親しみやすくないと感じるのはどんなときですか?」

答えを出すのを遅らせる。

それが共感フェーズでやるべきことでした。

要望を「保留する」具体的な方法

保留するとは、何もしないことではありません。

意味づけをしないまま、材料を集め続けることです。

具体的には、要望を聞いたら「それってどういう意味ですか?」と聞くのではなく、「それって、たとえばどんな場面で感じますか?」と聞きます。

抽象的な言葉を抽象的なまま掘り下げるのです。

また、頭の中で解決策が浮かんでも、いったん横に置きます。「自分ならこうするな」というアイデアは消さなくていい。

ただ、それを「正解」として確定させない。

あくまで「仮説のひとつ」として保留しておく。

この「判断を保留する」という技術は、判断力を鍛える思考法でも解説しています。

この「保留」ができるようになると、修正が激減しました。

なぜなら、最初から「決めつけない」ことで、ズレる余地がなくなるからです。

まとめ:共感フェーズでは進まない勇気を

共感フェーズで一番大切なのは、進まない勇気です。

要望を聞いた瞬間、答えを出したくなります。

それは自然なことです。

早く答えを出すことが、誠実さやプロ意識だと思っているからです。

でも、その瞬間に「答えを出さなくていい」と自分に許可してください。

「分かった」と感じた瞬間こそ、立ち止まるサインです。

共感とは理解することではなく、決めないこと。

要望は正解ではなく、正解の種。

これは「正解を育てる」プロセスの中でも、最初に一番つまずきやすいポイントです。

この視点を持つだけで、ヒアリングの質が変わります。

共感から始まるデザインプロセス全体については、要望を正解に育てるプロセスで体系的にまとめています。

次に要望を聞いたとき、すぐに「こうしよう」と決めなくて大丈夫です。

曖昧なままでいい。

その曖昧さを抱えたまま、一緒に正解を育てていく。

それが共感フェーズの本当の役割です。

正解を育てるには、まず自分の現在地を知ることから。

自分を観測するための100の問いというPDFを無料で配布しています。

要望を受け取る前に、自分自身の思考の癖を観測する習慣をつけてみてください。