「AIに奪われる仕事ランキング」で、自分の職種を見つけてしまった。
あの瞬間の気持ち、わかります。
夜中にスマホで開いた記事に「Webデザイナー」「プログラマー」と並んでいて、胃のあたりがきゅっとなる感覚。
自分もそうでした。

でも、実際にAIと17年分の仕事を並べてみたら、消えたのは「仕事」じゃなかった。
消えたのは「工程」でした。
「仕事がなくなる」の粒度が大きすぎる

「AIで消える仕事ランキング」を検索すると、どの記事も職業名がずらっと並んでいます。
事務職、デザイナー、プログラマー、翻訳者。
この情報、構造的に見ると粒度が大きすぎます。
「Webデザイナーがなくなる」と「バナーの量産作業がAIに代替される」は、まったく違う話です。
前者は職業まるごとの消滅。
後者は工程の一部が変わるだけ。なのに、ランキング記事は前者の粒度で語ります。
この構造の問題、学術研究ではとっくに指摘されています。
2013年、オックスフォード大学のFrey & Osborne の研究が「米国の全雇用の約47%が自動化リスクにさらされている」と推定しました。
野村総合研究所とオックスフォード大学の共同研究(2015年)では日本の49%という数字も出ています。
ただし、これは「技術的可能性の推定」であって予測ではありません。
著者ら自身がそう明記しています。
ここが重要です。
2018年にOECDのタスクベース分析(Nedelkoska & Quintini, 2018)が同じ問題を「タスク単位」で分析し直しました。
すると高リスクは14%に下がった。
47%と14%。
同じ「AIによる自動化リスク」を扱っているのに、3倍以上の差があります。
違いは分析の粒度です。
職業をまるごと見るか、タスク(工程)に分解して見るか。
ぶっちゃけ、「仕事がなくなるかどうか」という問い自体が、粒度を間違えています。
問うべきは「自分の仕事のどの工程が変わるか」です。
そうしないと、AI情報が多すぎて疲れる構造を分解した記事で書いたように、情報に振り回されるだけで判断ができないまま不安だけが積み上がります。
最近の研究では、こうした不安に名前がつきました。
AIRD(AI Replacement Dysfunction)。フロリダ大学のMcNamara & Thornton(2025)が提案した概念で、AIによる仕事喪失の脅威に直面した人が経験する不安やアイデンティティの揺らぎを指します。
まだ正式な臨床診断ではなく提案段階ですが、ロイター調査では回答者の7割以上がAIによる失業を恐れているというデータもあります。
ランキング記事を見て不安になるのは、おかしなことじゃない。
ただ、その不安は粒度の問題から来ている可能性があります。
実際にAIと仕事してわかったこと — 消えたのは「工程」だった

自分のケースを話します。
Web制作を17年やっています。
去年からClaude Codeという生成AIと実務で組み始めて、衝撃を受けたことがあります。
コーディング速度。
圧倒的に負けました。
HTMLとCSSを書く作業、自分が1時間かけるところをAIは5分で仕上げる。
正直、これには驚いた。
「エンジニアの仕事、終わったな」と思いかけました。
でも、設計は違った。
クライアントが「なんかこう、いい感じにして」と言ったとき、その「いい感じ」を構造に翻訳する作業。
これはAIにはできませんでした。
過去のプロジェクトの文脈、そのクライアントの好み、業界の暗黙知。
こういうものを踏まえた設計は、自分のほうが速い。
「エンジニア」という職業は消えていません。
でも「定型的なコーディング」という工程は、確実にAIに移りつつあります。
これは自分だけの話ではないです。McKinsey(2023)の生成AIレポートは約850の職業を約2,100のタスクに分解して分析しています。
結論は「従業員の労働時間の60〜70%を占めるタスクが自動化の技術的可能性を持つ」でした。
60〜70%。
大きな数字に見えます。
でもこれは「タスクの自動化可能性」であって、「60〜70%の仕事がなくなる」とは言っていません。
内閣府(2024)の分析もタスクベースで見ており、先進国では代替性の高い職業32%に対し、AIで補完される(強化される)職業も26%あると報告しています。
消えるだけじゃなく、変わるものもある。
その判断は工程を見ないとできません。
経験がある人ほどAIと組みやすい理由を書いた実験ログでも触れましたが、経験の蓄積が活きるのは、まさにAIが代替できない工程のほうです。
工程レベルで分解してみる — Web制作の場合

自分のWeb制作の仕事を6つの工程に分解してみます。
| 工程 | 内容 | AI代替度 |
|---|---|---|
| ヒアリング | クライアントの要望を引き出す | 人間(文脈・信頼関係が必要) |
| 設計 | 情報設計・ワイヤーフレーム | 人間(暗黙知・経験則が必要) |
| デザイン | ビジュアル制作 | AI補助(生成AIで素材作成、調整は人間) |
| コーディング | HTML/CSS/JSの実装 | AI代替(Claude Codeで大幅に高速化) |
| テスト | 表示確認・バグチェック | AI補助(自動テスト + 人間の判断) |
| 納品・運用 | クライアント説明・引き渡し | 人間(説明と関係構築が必要) |
6工程のうち、AIに完全に代替されたのは1つ。
AI補助が2つ。
残りの3つは人間のまま。
「Webデザイナーがなくなる」という話と、だいぶ景色が違います。
Adobe製品にAIが組み込まれて、デザイナーの仕事がどう変わったかでも書きましたが、ツール側にAIが入っても、判断する工程は残ります。
むしろAIがツール作業を巻き取ってくれた分、判断に使える時間が増えた。
これは嬉しい誤算でした。
他の職種でも同じ構造が見える

Web制作に限った話ではありません。
営業の場合:
- リスト作成・データ分析 → AI代替
- 提案資料の叩き台作成 → AI補助
- 顧客との関係構築・交渉 → 人間
- 例外対応・クレーム処理 → 人間
事務職の場合:
- データ入力・集計 → AI代替
- 定型書類の作成 → AI代替
- 例外判断(「この請求書、いつもと違うけどどうする?」) → 人間
- 社内調整・根回し → 人間
ライターの場合:
- 情報収集・整理 → AI補助
- 定型コンテンツの量産 → AI代替
- 取材・インタビュー → 人間
- 文脈を踏まえた切り口設計 → 人間
どの職種も、分解すれば「全部なくなる」なんてことにはなりません。
変わる工程と残る工程が混在しています。
AIについていけないと感じる心理構造を分解した記事で書いた「正解探し」と同じ構造です。
「全部把握してから動こう」という隠れた完璧主義の構造が、ランキング記事を次から次へと読む行動を駆動している。
でも全職種を把握する必要はありません。
自分の仕事を分解すればいいだけです。
恐怖と実態のギャップを示すデータもあります。
労働政策研究・研修機構(JILPT)の2万2千人調査(2025年)によると、日本の企業全体でのAI使用率はまだ12.9%。
自分自身がAIを利用している人は8.4%にとどまっています。
「仕事がなくなる」という恐怖の大きさに比べて、実際の導入はまだ初期段階です。
まとめ: 恐怖を「判断」に変える工程分解

ここまでを整理します。
- 「AIで仕事がなくなる」のランキング記事は職業単位で語っている
- 学術研究はタスク(工程)単位の分析に移行済み。粒度が変わるとリスク評価も変わる(47% → 14%)
- 実際にAIと仕事すると、消えるのは「職業」ではなく「特定の工程」
- 自分の仕事を5〜10の工程に分解すれば、何が残り何が変わるかが見える
やってみてほしいことがあります。
自分の仕事を5〜10の工程に書き出して、それぞれに「AI代替 / AI補助 / 人間 / まだわからない」のラベルをつけてみてください。
「まだわからない」があっていい。
全部わかる必要はありません。
分解した時点で、恐怖は判断材料に変わります。
AI不安の中で最初の一歩を踏み出した体験記にも書きましたが、不安を消す必要はなくて、不安のまま一歩目を踏めるかどうかの問題です。工程分解は、その一歩目になります。
参考文献
- Frey & Osborne (2013) “The Future of Employment” — Oxford Martin School
- Nedelkoska & Quintini (2018) “Automation, Skills Use and Training” — OECD Working Papers No. 202
- McKinsey Global Institute (2023) “The Economic Potential of Generative AI”
- 野村総合研究所 (2015) 日本の労働人口の49%が代替可能に
- 内閣府 (2024) 世界経済の潮流「AIで変わる労働市場」
- JILPT (2025) AIの職場導入による働き方への影響等に関する調査
- McNamara & Thornton (2025) AIRD — Cureus (PMID: 41000143)
AI時代の不安を構造で分解するシリーズ
AI時代の不安・焦り・パフォーマンス低下を「構造」で分解し、対処の糸口を見つけるシリーズです。

