n8nとDifyは「比較」するものじゃない

n8nとDify。
最近よく一緒に名前が挙がります。
「どっちがいい?」という質問もSNSで見かけます。
でも実際に両方触った感想を先に言うと、そもそも土俵が違います。
n8nは「ワークフロー自動化エンジン」。
Difyは「AIアプリ構築プラットフォーム」。
見た目はどちらもノードベースのGUIで、どちらもAIを扱えます。
だから混同されがちです。
ただ、中身の設計思想はまったく別物です。
この記事では、スペック表を並べて「はい、比較しました」で終わらせません。
n8nとDifyの設計思想の違いから掘り下げて、「あなたがやりたいこと」に合うのはどちらかを判断できるようにします。
基本スペック比較表

まずはざっくり全体像を掴んでください。
| 項目 | n8n | Dify |
|---|---|---|
| 読み方 | エヌエイトエヌ | ディフィー(/ˈdiːfiː/) |
| 開発元 | n8n GmbH(ドイツ) | LangGenius, Inc.(米国) |
| 設立 | 2019年 | 2023年 |
| 設計思想 | 汎用ワークフロー自動化 + AI機能 | AIネイティブアプリ構築 |
| GitHub Stars | 約175,000 | 約130,000 |
| ライセンス | Fair-code(Sustainable Use License) | Apache 2.0ベース + 追加条件 |
| インテグレーション | 400以上(ネイティブ)+ 600以上(コミュニティ) | 50+ツール / 310+プラグイン |
| AI統合 | LangChain経由 | ネイティブLLM統合 |
| RAG | 自前構築(Vector Store + Embedding) | ビルトイン(GUI操作) |
| カスタムコード | JS / Python(自由度高い) | Python / JS(サンドボックス制限あり) |
| セルフホスト | 1コンテナ(月$5〜) | 10+コンテナ(月$20〜) |
| Cloud料金 | Starter 月€24 | Professional 月$59 |
| MCP対応 | 双方向 | 双方向(v1.6.0〜) |
| 日本語ドキュメント | なし(コミュニティ翻訳) | あり(公式) |
| 資金調達 | $180M(シリーズC) | $11.5M |
数字だけ見ると「n8nのほうがスター多いし安いじゃん」と思うかもしれません。でもこの比較、リンゴとミカンを並べているようなものです。大事なのはこの次の章です。
設計思想がそもそも違う
n8n:自動化ファースト、AIはオプション
n8nとは何か——その基本とZapierとの違いで詳しく書きましたが、n8nの出自は「ワークフロー自動化ツール」です。
ZapierやMakeの競合として2019年に登場しました。
AIは後から追加された機能です。
LangChain統合、ベクトルストア、AIエージェントノード——これらは2024年以降に急速に充実しましたが、n8nの核はあくまで「AのイベントをトリガーにBの処理をしてCに出力する」という汎用ワークフローエンジンです。
つまり、AI抜きでも十分に使えます。
Search ConsoleのデータをGoogleスプレッドシートに自動転記する、GitHubのPRが来たらSlackに通知する——こういうAIを使わない自動化も守備範囲です。
Dify:AI/LLMファースト、ワークフローは手段
Difyは2023年にLangGenius, Inc.が立ち上げたプロジェクトで、最初から「LLMアプリケーションを簡単に作れるプラットフォーム」として設計されています。
読み方は「ディフィー」。
2025年のリブランディングで Dify に統一されました。
Difyの中心にいるのはLLM(大規模言語モデル)です。
チャットボット、テキスト生成、RAG(検索拡張生成)、AIエージェント——すべてがLLMを前提とした機能です。
ワークフローも組めますが、それはAI処理のパイプラインを構築するための手段です。
このn8nとDifyの違い、ひとことで言えば:
- n8n = 自動化エンジンにAI機能を載せた
- Dify = AIエンジンにワークフロー機能を載せた
ベクトルが逆なんです。
実際に触って分かった5つの違い
スペック表では伝わらない、手を動かして初めて分かる違いがあります。
1. UIの思想が違う
n8nのキャンバスは「フローチャート」です。
左から右へノードをつないでいく。
データがどう流れるかが直感的に見えます。
400以上のインテグレーションノードがずらっと並んでいて、「Slackノード置いて、Googleスプレッドシートノードつないで……」とレゴブロック感覚で組めます。
Difyのキャンバスは「AIパイプライン」です。
見た目は似ていますが、ノードの種類がまるで違います。
LLMノード、知識取得ノード、質問分類ノード——AIの処理フローに特化しています。
Slack連携のような外部サービスとの接続は、HTTPリクエストノードやプラグインで対応する形です。
ぱっと触った瞬間に「あ、目的が違うな」と感じます。
2. RAGの体験が別次元
ここがDifyの圧倒的な強みです。
n8nでRAGを組むには、Embeddingノード → Vector Storeノード → Retrievalノードを自分で配線して、チャンキング戦略も自分で決める必要があります。
できなくはないです。
でも「RAG構築ツール」としてn8nを使う場合、けっこうな手間がかかります。
Difyは「Knowledge」タブを開いて、PDFやWebサイトのURLをドラッグ&ドロップするだけです。
チャンキングもインデックスも自動。
GUIでテストクエリを投げて、検索精度をリアルタイムで確認できます。
正直に言うと、RAGだけならDifyの体験は感動的でした。「こんなに簡単にできていいの?」という感覚です。
3. デバッグ体験の差
n8nのデバッグはかなり快適です。
ワークフロー内の各ノードの入出力データがリアルタイムで確認できます。
どのノードでエラーが出たか、どんなデータが流れたか、一目瞭然。これは数年かけて磨かれたUIの成熟度を感じます。
Difyもログ機能はありますが、n8nほどの「1ノードずつ追える」粒度はありません。
特にワークフローが複雑になると、どこでトークンを消費しているか、どこでレスポンスが遅いかの切り分けがn8nのほうが楽です。
4. コードの自由度
n8nの「Code」ノードはほぼ何でもできます。
JavaScript/Pythonで自由にコードを書けて、外部パッケージも使えます。
n8nの基本ノードでカバーしきれない処理はコードで埋める——この「ノーコード8割 + コード2割」のバランスが絶妙です。
Difyのコードノードはサンドボックス環境で動くため、いくつかの制限があります。ネットワークアクセスやファイルシステムアクセスに制限がかかるケースがあります。
セキュリティ上の配慮ですが、「ちょっとスクレイピングして前処理したい」みたいな場面で引っかかることがあります。
5. セルフホストの重さ
n8nのDocker Compose構築ガイドで書いたとおり、n8nのセルフホストはコンテナ1つ。
PostgreSQL入れても2つです。
1vCPU / 2GB RAMのVPSで余裕で動きます。
月$5のサーバーで完結する軽さです。筆者もConoHa VPSで運用中です。![]()
Difyのセルフホストは、docker-compose.ymlに10以上のコンテナが定義されています。
API、Worker、Web、Redis、PostgreSQL、Weaviate(ベクトルDB)、Sandbox……。
最低でも4GB RAM、できれば8GB欲しいところです。
月$20は見ておく必要があります。
これは優劣ではなく、機能の範囲の違いです。
DifyはRAGエンジンやサンドボックスを内包しているから重い。
n8nはそれらを外部サービスに委譲しているから軽い。
設計思想の違いがそのままインフラ構成に出ています。
用途別:どっちを選ぶ?

「で、結局どっちがいいの?」
答えは「やりたいことによる」ですが、それだと不親切なので、具体的な判断基準を出します。
n8nを選ぶべきケース
- マルチSaaS連携が主目的:Slack、Google Workspace、Notion、GitHub、Stripeなど複数のSaaSをつなぎたい
- 定期バッチ処理:「毎朝9時にAPIを叩いてデータを取得してスプレッドシートに書く」のような定時実行
- Webhook処理:外部サービスからのイベントを受け取って処理するリアルタイム連携
- 業務自動化にAIを”一部”組み込みたい:ワークフローの途中でLLMに要約させる、分類させるなど
- 軽量なセルフホスト環境:月$5のVPSで動かしたい
Difyを選ぶべきケース
- AIチャットボット構築:社内FAQ bot、カスタマーサポートbot
- RAGシステム:社内ドキュメントや自分のブログを知識ベースにしたAI検索
- AIエージェント構築:ツール呼び出し付きの自律型AIエージェント
- LLMの比較・チューニング:GPT-4o、Claude、Geminiを同じプロンプトで比較テスト
- コンテンツ生成パイプライン:プロンプトチェーンでテキスト生成を自動化
迷ったときのシンプルな判定
こう考えてみてください。
「AI抜きでも自動化したいことがある」→ **n8n**
「AIが中心で、周辺の連携はおまけ」→ **Dify**
これでだいたい合います。
併用という第三の選択肢——n8nとDifyの連携

実は、n8nとDifyは排他的な関係ではありません。
むしろ組み合わせると強力です。
n8n × Dify APIのハイブリッド構成
DifyにはREST APIが用意されています。
つまり、n8nのHTTPリクエストノードからDifyのAPIを呼べます。
具体例を挙げます。
- Slackでメッセージを受信(n8nのSlackトリガーノード)
- Dify APIにリクエスト送信(n8nのHTTPリクエストノード → Difyのチャット補完API)
- DifyがRAGで回答生成(Dify側で社内ドキュメント検索 + LLM回答)
- 回答をSlackに返信(n8nのSlackノード)
この構成だと、n8nが「いつ・どこから・何を受け取って・どこに返すか」を担当し、Difyが「AIでどう処理するか」を担当します。
それぞれの得意分野に集中させるわけです。
他にも、n8nで定期的にRSSフィードを取得 → Dify APIで要約生成 → Notionに保存、のようなパターンも組めます。
ぶっちゃけ、この併用パターンが一番柔軟です。両方セルフホストすればAPI呼び出しのコストもゼロ。
ネットワークもローカルで完結します。
料金を真面目に比較する
個人で使う場合、料金は無視できません。
クラウド版の比較
| プラン | n8n Cloud | Dify Cloud |
|---|---|---|
| 無料枠 | なし(14日トライアル) | 200回/日のGPT利用 |
| エントリー | Starter €24/月 | Sandbox 無料 |
| 本格利用 | Pro €60/月 | Professional $59/月 |
| チーム向け | Enterprise(要問い合わせ) | Team $159/月 |
セルフホスト版の比較
| 項目 | n8n | Dify |
|---|---|---|
| ソフト料金 | 無料 | 無料 |
| 最低VPSスペック | 1 vCPU / 2 GB RAM | 2 vCPU / 4 GB RAM |
| 月額VPS目安 | $5〜10 | $20〜40 |
| 構築難易度 | 低(コンテナ1〜2個) | 中(コンテナ10+個) |
セルフホストで両方動かすなら、4 vCPU / 8 GB RAM以上のVPSが欲しいところです。
月$30〜50程度。
それでもクラウド版2つ契約するより圧倒的に安いです。
日本語環境での使いやすさ
ここは意外と重要なポイントです。
DifyはUI・ドキュメントともに日本語対応が進んでいます。
公式ドキュメントに日本語ページがあり、リコーやTDSEなど日本のパートナー企業もいます。
「英語が苦手だけどAIツールを使いたい」という方にはDifyのほうがハードルは低いです。
n8nのUIは英語です。
ドキュメントも英語。
コミュニティによる日本語情報はありますが、公式サポートではありません。
ただ、n8nの基本とZapierとの違いさえ理解すれば、ノードの操作自体は直感的なので、英語が壁になる場面はそこまで多くありません。
まとめ:土俵の違いを理解して選ぶ
改めて整理します。
n8n = 400以上のSaaS連携を持つ汎用ワークフロー自動化エンジン。
AIは強力なオプション機能のひとつ。
軽量セルフホストが可能で、月$5から始められます。
Dify = LLMを中心に据えたAIアプリケーション構築プラットフォーム。
RAG、チャットボット、エージェントがGUIで作れます。
日本語ドキュメントもあります。
どちらが「上」ということはありません。
包丁とフライパンを比べているようなものです。
料理(=やりたいこと)が先にあって、それに合う道具を選ぶ。
僕自身はn8nをメインで運用しつつ、RAGが必要な場面ではDify APIを呼ぶハイブリッド構成にしています。
n8nの始め方はn8nのDocker Compose構築ガイドで、AI自動化ツール全体の比較はAI自動化ツール4強比較でまとめていますので、あわせてどうぞ。
参考になれば幸いです。

