はじめに ― “素材探しに時間を奪われる”時代の終わり
グラフィック制作の中で、最も時間を取られていたのは「素材や参考探し」でした。
イメージに合う写真を探し、足りない部分を別素材で補い、さらに合成して整える──。
バナー1枚を仕上げるのに、1時間半ほどかかることも珍しくありませんでした。
しかし、Photoshopの「生成塗りつぶし」を取り入れてから、その構図が一変しました。
素材を探すのではなく、“生成する”という選択肢が加わったことで、
制作時間はおよそ1/3に短縮できたのです。
ワークフローの全体像
従来の手作業フローをベースに、AIの力を組み合わせたのが、いま実践している「ハイブリッド手法」です。
以下がその基本構成です。
- リファレンス収集(約10分)
AIに頼らず、人の目で方向性を固める工程。PinterestやDribbbleで感覚をつかみます。
この段階はAIでは代替しにくく、“目的意識”を定める大切な時間です。 - 構図ラフ作成(約10分)
参考をもとに、大まかなレイアウトを決めます。
ここで生成塗りつぶし用の「余白」や「指示エリア」を意識して準備します。 - 生成塗りつぶしで素材作成(約5分)
たとえば「夕暮れのオフィス」「森の中の小道」「海辺に立つ人物」など、
欲しい要素をテキストで入力。驚くほど自然な構図が得られます。
不足している部分だけをAIで“補う”のがポイントです。 - 手作業での調整と仕上げ(約15分)
生成結果をそのまま使わず、トーンカーブやレイヤーマスクで微調整。
ここに“人の感覚”を加えることで、商用レベルの完成度になります。
結果、1時間半かかっていた作業が約40分で完了。
しかも提案バリエーションは以前の2〜3倍に増えました。
実際の変化 ― “探す”から“作る”へ
生成塗りつぶしを使うことで、最大の変化は「思考の流れ」です。
これまでは「素材を探してから構図を考える」順序でしたが、
いまは「構図を考えながら素材を作る」プロセスになりました。
たとえば「街灯の下に立つ人物」というイメージを思いついたら、
そのままブラシで範囲を選択し、「night streetlight, single person, cinematic」と入力。
5秒後にはアイデアを形にできる。
このスピード感が、制作のリズムそのものを変えました。
生成塗りつぶし実践3例:ビジュアル構成ガイド
① 不要物の除去と自然な補完
目的: 時短効果が最も伝わる例(“修正系”の代表)
使用シーン:商品撮影の背景に映り込んだケーブルや照明スタンドを自然に除去。

作業内容:
- 背景の一部を投げ縄ツールで選択
- 「生成塗りつぶし」→ プロンプト空欄のまま実行

② キャンバス拡張による構図変更
目的: “使えない写真を使える素材に変える”応用例
使用シーン:SNSバナーなどで横長構図が必要だが、素材が縦長しかない場合。

作業内容:
- カンバスサイズを横に拡張(例:1.5倍)
- 空白部分を選択して「生成塗りつぶし」
- プロンプト例:「自然な背景を拡張」「extend natural background to the right」

③ ビジュアル提案のバリエーション生成
目的: “AIで提案力が上がる”を体感させる例(提案型の変化)
使用シーン:クライアントから「季節感を加えたい」とリクエストが来たとき。

作業内容:
- 背景エリアを選択(被写体を選択して、選択範囲を反転)
- 「緑の木々、明るい昼」「秋の紅葉を追加」「雪が降る冬の公園」などをプロンプトに入力
- 生成結果を3〜4パターン比較し、最も自然なものを採用



AI任せで失敗したときに気づいたこと
最初はAIにすべてを任せようとしました。
しかし、出力された画像は構図も配色も安定せず、デザインとして使えるものではありませんでした。
試行錯誤の末にわかったのは、AIは“何を作るか”を自分で決められないということ。
構図の意図、デザインの目的、配色のトーン──
これらを明確にして初めて、AIが力を発揮します。
つまり「AIが描く」のではなく、「AIに描かせるための設計」が必要なのです。
ベテランの視点 ― 経験がある人ほどAIを使いこなせる
AIを使うほど感じるのは、手作業の経験こそがAI時代の強みだということです。
構成を整える目、素材を見極める判断、最終的な質感の調整──
これらの感覚は、経験を積んだデザイナーだからこそできる“AIの補正作業”です。
生成塗りつぶしは、単なる時短ツールではなく、
人のクリエイティブを拡張する新しい筆なのかもしれません。
まとめ ― ハイブリッド手法で制作を進化させる
AIと人のスキルを組み合わせたハイブリッド制作は、
スピードだけでなく「発想の幅」まで広げてくれます。
Photoshopの生成塗りつぶしを使いこなすコツは、
“AIに任せる”のではなく、“AIを相棒にする”こと。
制作時間を1/3に短縮しながらも、
デザインの質を落とさず、むしろ高めていく。
それが、これからのデザイナーの新しいワークフローです。

