一回の数値で決めなくていい|体のデータを「流れ」で見る

一つの数値が、頭から離れないとき

健康診断の結果を見て、ひとつの数値が気になってしまったことはありませんか。

「去年より上がっている」「基準値ぎりぎりだ」「これは大丈夫なのだろうか」——そんな考えが頭の中をぐるぐる回って、なかなか離れてくれない。

私自身もそういう経験があります。結果用紙を開いて、気になる項目を見つけてしまうと、他の項目が問題なくてもそこばかりが目に入ってくる。

その数値が何を意味しているのか、調べれば調べるほど不安が増していく。

でも最近、数値との向き合い方について、少し違う捉え方ができるようになってきました。

今日はその視点についてお話しします。

「点」で見ているとき、私たちは何を見ているのか

健康診断の数値を見るとき、私たちはつい「その一点」だけを見てしまいがちです。

「空腹時血糖値が105 mg/dLだった」「LDLコレステロールが130 mg/dLだった」——その数字が基準値の中にあるかどうか、高いか低いかで判断しようとします。

でも、血液検査の値というのは、実は測定するタイミングによって自然に変動するものです。

たとえば、同じ人が同じ日に検査を受けても、午前と午後では数値が異なることがあります。

コルチゾールというホルモンの場合、朝は約10.6 μg/dlほどだったものが、午後には5.6 μg/dlまで下がることがあるという報告があります。

約89%もの差があるわけです。

空腹時血糖値についても、同じ人が繰り返し測定したときの自然な変動幅(個人内変動係数)は約5%とされています。

つまり、何も変わっていなくても、検査のたびに数%の範囲で値が上下することは、生理的に普通のことなのです。

一点だけを見て「上がった」「下がった」と判断するのは、流れている川の一瞬を写真に撮って「今日の川はこういう形だ」と言っているようなものなのかもしれません。

時系列で見ると、見え方が変わる

数値を「評価」ではなく「視点」として見るという記事でも触れましたが、数値はあなたを評価するためのものではありません。

今の状態を教えてくれているフィードバックです。

そして、そのフィードバックをより正確に理解するためには、「点」ではなく「流れ」で見ることが役立ちます。

去年と今年だけを比べるのではなく、3年分、5年分を並べてみる。

すると、単年の変化だけでは見えなかったパターンが浮かび上がってくることがあります。

「今年は上がったけれど、3年前と比べるとほぼ同じ水準だな」

「毎年この時期は少し高めになる傾向があるな」

「去年だけ急に下がっていたけれど、今年は元に戻っているな」

こうした「自分の中での傾向」は、一回の検査結果だけでは見えてきません。

正常範囲と体感のズレで触れたように、集団の基準範囲は「健康な人の95%が入る範囲」として設定されています。

でも、個人の自然な変動幅は、集団の基準範囲よりもずっと狭いことが多いのです。

個人内変動係数と集団間変動係数の比率(個別性指標)が0.6未満の検査項目では、集団の基準範囲よりも「自分の過去の値との比較」のほうが、変化を捉えやすいとされています。

つまり、時系列で見ることで、「集団の中での位置」ではなく「自分の中での変化」が見えてくるのです。

変動は「ノイズ」ではなく、体が反応している証拠

ここまで読んで、「でも、変動があるということは何か問題があるのでは」と思った方もいるかもしれません。

でも、変動があること自体は、むしろ体が正常に機能している証拠とも言えます。

私たちの体は、環境の変化に応じて常に調整を行っています。

季節が変われば、コレステロール値は冬のほうが夏より3〜5%高くなることが知られています。

睡眠が不足すれば、インスリンの反応が変化します。

6晩の睡眠制限でインスリン反応が30%低下したという研究報告もあります。

ストレスを「サイン」として読むで書いたように、体の反応には意味があります。

ストレスを感じたときにコルチゾールが上がるのは、体がおかしくなっているのではなく、状況に適応しようとしているからです。

血液検査の値が変動するのも同じです。

それは体がさまざまな環境に反応している証拠であり、必ずしも「問題」を意味するわけではありません。

大切なのは、一回の変動に振り回されるのではなく、長期的なトレンドとして何が起きているかを把握することです。

流れで見る、という選択肢を持っておく

ここまで「流れで見る」ことの意義をお伝えしてきましたが、これは「点で見るな」という話ではありません。

健康診断を受けて、その結果を確認する。気になる数値があれば、医師に相談する。

それは当然大切なことです。

ただ、それと同時に、「この一回の数値がすべてではない」「流れの中で見れば、また違う景色が見えるかもしれない」という選択肢を持っておくことで、少し心の余裕が生まれることがあります。

「変えなくていいもの」を見つけるという記事で書いたように、健康と向き合うことは「常に何かを変え続けること」ではありません。

一回の数値を見て焦って何かを変えようとするのではなく、まずは「これは流れの中でどういう位置にあるのだろう」と考えてみる。その上で、本当に変化が必要なのかどうかを判断する。

そんなアプローチがあってもいいのではないでしょうか。

健康診断の数値は、体からのフィードバックです。

そのフィードバックを受け取るとき、「点」で見るか「流れ」で見るかで、心の持ちようは大きく変わります。

一回の数値に振り回されそうになったとき、「これは流れの中の一点にすぎない」と思い出してみてください。

それだけで、少し冷静に向き合えるようになるかもしれません。

参考になれば幸いです。

この記事は個人の経験と考え方を共有するものであり、医療アドバイスではありません。
健康診断の結果について気になることがある場合は、医師にご相談ください。

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