【書評】迷走するチーム開発に光を当てる!「カイゼンジャーニー」で見つけた改善の道標

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「このままじゃダメだ」

そう思いながらも、日々の業務に追われ、チームの改善に手が回らない。スプリントを重ねるたびに積み重なる技術的負債、いつまでも解消されないコミュニケーションの齟齬、形骸化していく朝会やふりかえり──。

もしかしたら、あなたのチームも似たような状況に直面しているのではないでしょうか?

そんな現場の悩みに、一筋の光明を投げかけてくれるのが『カイゼンジャーニー』です。単なる手法の解説書ではなく、実在の開発現場を模したストーリーを通じて、チーム開発の理想と現実の狭間で苦悩するエンジニアたちの姿を描き出します。

本書との出会いは、私にとって「諦めなくていいんだ」という希望を見つけた瞬間でした。

今回は、迷走するチーム開発現場に具体的な道筋を示してくれる本書の魅力を、実践から得られた学びと共にお伝えしていきます。

「カイゼンジャーニー」とは? チーム開発の救世主として注目の理由

「カイゼンジャーニー」は、市谷聡啓氏とデビッド・バーンズ氏による共著で、2018年に登場して以来、多くの開発現場で支持され続けている一冊です。他の技術書とは一線を画す本書の特徴は、物語形式で展開される実践的なチーム改善の手法にあります。

著者のプロフィールと本書の背景

著者の市谷氏は、スクラム開発の第一人者として知られ、数多くの現場でアジャイル開発の導入と改善を支援してきました。共著者のデビッド・バーンズ氏も、グローバルで豊富な開発経験を持つエンジニアです。二人の実体験に基づく知見が、本書の説得力を高める大きな要因となっています。

ストーリー形式で学ぶカイゼンの本質

本書の最大の特徴は、架空の企業「KAIZEN STORE」を舞台に、主人公の江崎さんたちが試行錯誤しながらチーム改善を進めていく物語形式にあります。

読者は物語を通じて:

  • チームの問題点の発見方法
  • メンバーの巻き込み方
  • 具体的な改善アプローチの実践手順
  • 失敗した際の軌道修正の仕方

といった現場ですぐに活かせる知見を、自然な形で学ぶことができます。

単なる技術書ではなく、登場人物たちの悩みや成長に共感しながら、自身の現場に置き換えて考えられる構成となっているのです。教科書的な理論や手法の羅列ではなく、「なぜその改善が必要なのか」「どうやって組織を動かしていくのか」という本質的な部分まで、物語を通じて深く理解できる点が、多くの現場から支持される理由となっています。

本書から学ぶ3つの核心的なメッセージ

カイゼンジャーニー」には、チーム開発を成功に導くための本質的なメッセージが込められています。物語を通じて描かれる3つの核心的な学びを紐解いていきましょう。

「諦めない」がチーム改善の第一歩

本書の主人公である江崎さんが最初に直面したのは、「どうせ変わらない」という諦めのムードが漂うチームでした。この状況は、多くの開発現場で見られる光景かもしれません。

しかし、本書では「諦め」を打破する具体的なアプローチが示されています。例えば:

  • 小さな成功体験を積み重ねていく手法
  • チーム内の前向きな変化を可視化する工夫
  • メンバー一人ひとりの声に耳を傾ける姿勢

これらの実践を通じて、停滞していたチームが少しずつ変化していく過程が描かれています。

小さな改善の積み重ねが大きな変化を生む

本書で強調されているのは、劇的な変革よりも「小さな改善」の重要性です。朝会の5分短縮や、かんばんボードの見直しといった些細な変更から始まり、それらが積み重なることで大きな変化につながっていきます。

特筆すべきは、失敗を恐れず試行錯誤を続けることの大切さです。完璧な改善策を求めるのではなく、失敗から学びながら前進していく——この考え方が、持続可能な改善の鍵となっています。

リーダーシップとチーム全員の参加が鍵

改善は決してリーダーだけのものではありません。本書では、チーム全員が当事者として参加することの重要性が繰り返し説かれています。

具体的には:

  • リーダーが率先して「安全な場」を作り出す
  • メンバー各自が改善提案を出しやすい環境づくり
  • 成功も失敗も皆で共有し、学びに変える文化の醸成

これらの要素が組み合わさることで、真の意味での「カイゼン」が実現していくのです。

物語の中で江崎さんが実践したように、リーダーには「指示を出す人」ではなく「チームの成長を支援する人」としての役割が求められます。この視点の転換が、チーム全体の改善意識を高める重要な要素となっているのです。

現場で即実践できる具体的な改善手法

カイゼンジャーニー」の魅力は、すぐに実践できる具体的な手法が豊富に描かれている点です。ここでは、本書から学べる実践的なテクニックを、現場での応用を意識しながら紹介していきます。

朝会の効果的な運用方法

多くの現場で形骸化しがちな朝会ですが、本書ではその改善方法が具体的に描かれています。

効果的な朝会のポイント:

  • 15分を厳守し、集中度を保つ
  • 「昨日やったこと」より「今日やること」に焦点を当てる
  • ブロッカー(障害)の共有を重視する
  • 立った状態で行い、メリハリをつける
  • タイムキーパーを輪番制にし、全員参加意識を高める

特に注目したいのは、朝会を単なる報告の場から「チームの同期を取る場」へと転換させる視点です。本書の主人公が実践したように、些細な工夫の積み重ねが、朝会の価値を大きく変えていきます。

ふりかえりの進め方と効果的な活用法

ふりかえりは改善の要となる重要な機会です。本書では、形式的なふりかえりから実のあるものへと変化させる具体的な方法が示されています。

効果的なふりかえりのステップ:

  1. KPTやFDLを状況に応じて使い分ける
  2. 付箋の使い方を工夫し、全員の意見を引き出す
  3. アクションアイテムを必ず設定する
  4. 次回のふりかえりで改善状況を確認する

特筆すべきは、ふりかえりで出た意見を「宝物」として扱う姿勢です。どんな小さな気づきも、改善のタネとして大切にする文化づくりが重要だと説かれています。

タスク管理の可視化テクニック

本書では、かんばんボードを使った効果的なタスク管理の手法が詳しく解説されています。

実践的な可視化のポイント:

  • ToDo、Doing、Doneの基本3列から始める
  • WIPリミット(同時進行の上限)を設定する
  • ボトルネックが一目でわかる仕組みを作る
  • チーム全員が更新しやすい場所に設置する
  • 定期的にボードのレイアウトを見直す

注目すべきは、可視化することそのものが目的ではなく、チームの「対話を促進するツール」として活用する視点です。本書の事例では、かんばんボードを囲んでの短時間のディスカッションが、問題の早期発見と解決に貢献しています。

これらの手法は、いずれも特別な準備や道具を必要としません。明日から自分のチームで試せる実践的なものばかりです。本書ではこれらの手法が物語の中で自然に展開されており、「いつ」「どんな状況で」実践すべきかも理解しやすくなっています。

本書の実践で得られる4つのメリット

カイゼンジャーニー」で紹介されている手法を実践することで、チームにどのような変化が生まれるのでしょうか。物語の展開と私自身の実践経験から、具体的な4つのメリットをご紹介します。

チームのモチベーション向上

最も顕著な変化は、チームメンバーのモチベーション向上です。本書の手法を実践することで:

  • 自分の提案が採用される経験による当事者意識の芽生え
  • 小さな改善の積み重ねによる達成感の獲得
  • チーム全体で成功体験を共有する喜び
  • 「変えられる」という希望が生まれることによる前向きな姿勢

物語の中でも、最初は懐疑的だったメンバーが、少しずつ前向きになっていく様子が印象的に描かれています。この変化は、多くの現場で再現可能な実践的なものです。

生産性の改善

理想論ではない、具体的な生産性の向上が期待できます:

  • ムダな会議時間の削減
  • タスクの流れの可視化による滞留の解消
  • 問題の早期発見・対応によるリスク低減
  • チーム内コミュニケーションの効率化

特筆すべきは、これらの改善が一時的なものではなく、継続的な効果として現れる点です。本書で描かれる改善サイクルを回すことで、チームは着実に進化していきます。

コミュニケーションの活性化

本書の実践を通じて、チーム内のコミュニケーションは大きく変化します:

  • 気づきや提案を自然に共有できる雰囲気の醸成
  • 問題提起を歓迎する文化の形成
  • チーム内の知識共有が活発になる
  • 部門を越えた対話が生まれる

物語の中でも、当初は口を閉ざしていたメンバーが、徐々に意見を言えるようになっていく過程が丁寧に描かれています。この変化こそが、持続的な改善の原動力となるのです。

持続可能な開発文化の確立

最も重要な成果は、持続可能な開発文化が根付くことです:

  • 改善が日常的な活動として定着
  • 失敗を学びに変える姿勢の醸成
  • チーム全員が当事者として参加する文化の形成
  • 技術的負債に向き合う習慣の確立

本書では、これらの文化づくりが一朝一夕には進まないことも正直に描かれています。しかし、地道な取り組みを続けることで、確実に組織に根付いていく様子が説得力を持って示されているのです。

物語の最後で江崎さんが実感するように、真の改善は終わりのない旅路です。しかし、その道のりは決して孤独なものではありません。チーム全員で共に歩んでいける、そんな文化を築けることこそが、本書の実践がもたらす最大のメリットと言えるでしょう。

まとめ:チーム開発は諦めなくていい

カイゼンジャーニー」を読み終えて、最も心に残るメッセージは「チーム開発に正解はないが、希望はある」という点です。

本書の主人公である江崎さんも、最初は理想のチーム開発に懐疑的でした。形骸化した朝会、機能していないかんばんボード、沈黙が続くふりかえり——。どこにでもありそうな課題を抱えた開発チームの姿は、まさに多くの現場の縮図と言えるでしょう。

しかし、重要なのは「どこから始めるか」であって、「完璧な解決策」ではありません。本書が教えてくれたように:

  • 小さな一歩から始められる
  • 失敗しても、それを学びに変えられる
  • チームの誰もが改善の主役になれる
  • 変化は必ず起こせる

これらの気づきは、迷走する開発現場に明確な指針を与えてくれます。

特に印象的なのは、本書が「理想論」で終わっていない点です。困難に直面しながらも、地道な改善を続けることで、確実にチームが変わっていく過程が説得力を持って描かれています。

また、改善は決して一直線ではないことも、本書は正直に伝えています。時には後戻りすることもあれば、思うような成果が出ないこともある。しかし、そんな時でも諦めずに継続することで、必ず道は開けていくのです。

私自身、本書から学んだアプローチを実践してみて、チーム開発は確かに変えられるという確信を得ました。完璧なチームづくりへの道のりは終わりのない旅かもしれません。しかし、その旅路には確かな希望があります。

本書は、その希望への道標となってくれる一冊です。あなたのチームも、きっと変わることができます。その第一歩を踏み出すためのガイドとして、「カイゼンジャーニー」は最適な伴走者となってくれることでしょう。