ストレスを感じると、「体に悪いことをしている」と思っていませんか?
仕事の締め切りに追われるとき、人間関係で悩むとき、将来への不安を感じるとき。
私たちはストレスを感じるたびに、「このままでは体を壊す」「なんとかしなければ」と、さらに焦りを募らせてしまいがちです。
でも、ストレスそのものを「敵」として排除しようとする姿勢が、かえって私たちを追い詰めているのかもしれません。
今回は、ストレスとの付き合い方を見直すための、ひとつの視点をご紹介します。
「ストレス=悪」という思い込みの罠

「ストレスは体に悪い」——これは、私たちの多くが当たり前のように信じている常識です。
テレビや雑誌でも、ストレスが免疫力を下げる、病気の原因になると繰り返し報じられています。
ところが、この「常識」が思わぬ悪循環を生んでいる可能性があります。
ストレスを感じる → 「体に悪いことをしている」と不安になる → その不安がさらにストレスになる → ますます焦る
こうした二重のストレス状態に陥っている方は、少なくないのではないでしょうか。
私自身も、忙しい時期に「このストレスで体を壊すのでは」と心配になり、その心配自体がストレスになるという経験をしたことがあります。
興味深いことに、約30,000人を追跡した研究(Keller et al., 2012)では、こんな結果が報告されています。
高いストレスを抱えていて、かつ「ストレスは健康に有害だ」と信じている人は、死亡リスクが43%高くなっていました。
一方、同じように高いストレスを抱えていても、「ストレスは必ずしも有害ではない」と考えている人は、むしろ最も死亡リスクが低かったのです。
もちろん、これは「考え方を変えればストレスは無害」という単純な話ではありません。
ただ、ストレスに対する捉え方が、何らかの形で私たちの健康に影響している可能性を示唆しています。
ストレス反応は体の「適応システム」

そもそも、ストレス反応とは何なのでしょうか。
私たちの体には、HPA軸(視床下部-下垂体-副腎系)と呼ばれるシステムがあります。
これは、危機的な状況に対応するために進化的に獲得された仕組みです。
ストレスを感じると、コルチゾールというホルモンが分泌され、心拍数が上がり、筋肉に血流が集中します。
この反応は、かつて私たちの祖先が野生動物から逃げたり、狩りをしたりするときに必要だったものです。
つまり、ストレス反応は「体がおかしくなっている」のではなく、「体が状況に適応しようとしている」サインなのです。
健康データの見方でも触れましたが、体の反応には意味があります。
数値や症状を「良い・悪い」で判断するのではなく、「何を伝えようとしているのか」という視点で見ることが大切です。
ストレス反応も同じです。
体が何かに反応しているということは、それだけ体が正常に機能しているとも言えます。
急性ストレスと慢性ストレスの違い

ここで重要なのは、「急性ストレス」と「慢性ストレス」は生理学的にまったく異なるということです。
急性ストレスは、短期間で終わる一時的なストレスです。
プレゼンの直前、試験の当日、スポーツの試合中など。
こうした状況では、ストレス反応が一時的に免疫機能を高め、情報の記銘(覚える段階)を強化することが知られています。
ただし、想起(思い出す段階)には異なる影響があるなど、効果は複雑です。体は「今、ここ」に全力を注ぐモードに入るのです。
一方、慢性ストレスは、長期間にわたって続くストレスです。
終わりの見えない仕事のプレッシャー、解決しない人間関係の問題、経済的な不安など。
こうしたストレスが続くと、「アロスタティック負荷」と呼ばれる蓄積が生じ、体のさまざまなシステムに影響を及ぼす可能性があります。
つまり、問題なのは「ストレスを感じること」そのものではなく、「ストレス状態が慢性化すること」なのです。
正常範囲と体感のズレでも触れましたが、体の状態は常に変動しています。
一時的にストレスを感じることは、むしろ自然なことです。
大切なのは、そのストレスが慢性化していないかどうかを自分で把握することです。
ストレスを「サイン」として読む視点

では、ストレスを「敵」ではなく「サイン」として捉えるとは、具体的にどういうことでしょうか。
ひとつのアプローチは、ストレスを感じたときに「何に反応しているのか」を観察することです。
- 仕事のストレスを感じる → 「今の業務量が自分のキャパシティを超えているのかもしれない」
- 人間関係でストレスを感じる → 「自分の境界線が守られていないのかもしれない」
- 将来への不安を感じる → 「何か決めていないことがあるのかもしれない」
ストレスを「排除すべき敵」と見なすと、「どうやってストレスをなくすか」という思考になります。
しかし、「体からのサイン」と見なすと、「このサインは何を伝えているのか」という思考に変わります。
もちろん、これは「ストレスを我慢しろ」という話ではありません。
サインを読み取った結果、「環境を変える必要がある」「誰かに相談する必要がある」という判断に至ることもあるでしょう。
大切なのは、ストレスそのものを責めるのではなく、一度立ち止まって観察する姿勢です。
私自身も、ストレスを感じたときは「体が何かを教えようとしている」と考えるようにしています。
すぐに答えが出ないこともありますが、少なくとも「ストレスを感じている自分はダメだ」という二重の苦しみからは解放されます。
まとめ:新しい付き合い方への第一歩
ストレスは、私たちの体に備わった適応システムの一部です。
それ自体を「悪者」として排除しようとするのではなく、「体からのサイン」として受け止める。
そんな視点の転換が、ストレスとのより健やかな付き合い方への第一歩になるかもしれません。
今回の記事でお伝えしたかったのは、以下のポイントです。
- ストレスを感じること自体を責める必要はない
- ストレス反応は進化的に獲得された適応システム
- 問題は「ストレスの存在」ではなく「慢性化」
- ストレスを「サイン」として読むことで、対処の糸口が見えてくる
ストレスに対する捉え方は、人それぞれです。
今回ご紹介した視点が、あなたにとってしっくりこない場合もあるでしょう。
それでも、「ストレス=悪」という固定観念を一度手放してみることで、何か新しい気づきがあるかもしれません。
参考になれば幸いです。
この記事は個人の経験と考え方を共有するものであり、医療アドバイスではありません。
健康診断の結果について気になることがある場合は、医師にご相談ください。
参考文献
この記事で参照した研究・情報源です。
引用した研究
- Keller, A., et al. (2012). Does the perception that stress affects health matter? The association with health and mortality. *Health Psychology*, 31(5), 677-684.
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