健康診断を受けて、「すべて正常範囲です」と言われたのに、なんとなく調子がよくない。
そんな経験をしたことはありませんか。
「数値は問題ありません」と言われると、自分の体感のほうが間違っているような気がしてくることがあります。
でも、そのズレには意味があるかもしれません。
「正常範囲」とは何を意味しているのか

まず、健康診断で使われる「正常範囲」(専門的には「基準範囲」と呼ばれます)が、どのように決められているかを知っておくと、見え方が変わってきます。
基準範囲は、健康な人たちの検査値を集めて、その中央95%をカバーする区間として設定されています。
これは日本臨床検査医学会のガイドラインでも定義されている考え方です。
つまり、定義上、健康な人の5%は基準範囲の外に出ることになります。
上下それぞれ2.5%ずつですね。「正常範囲に入っていれば健康、外れていれば異常」という単純な話ではないということです。
さらに興味深いのは、20項目の検査を受けた場合、健康な人でも約3割しか全項目が基準範囲内に収まらないという計算になることです。複数の項目を検査すると、統計的にどこかが範囲外になりやすいわけです。
体感と数値がズレるのは、珍しいことではない

基準範囲は「集団の統計」であって、「あなた個人の正常」を直接示しているわけではありません。
東邦大学医療センター大橋病院の資料によると、個人の検査値の変動幅は、集団全体の基準範囲よりも狭い傾向があるそうです。
たとえば、総タンパク(TP)という項目を例にすると、集団の基準範囲は6.9〜8.6 g/dlで、幅は1.7 g/dlあります。
しかし、ある個人の10年間の変動幅を見ると、7.4〜7.8 g/dlと0.4 g/dlの範囲に収まっていました。
この人にとって、たとえば7.0 g/dlという値は「基準範囲内」ではあるけれど、「自分としてはいつもより低い」ということになります。体感に何らかの変化があっても不思議ではありませんよね。
ズレを「問題」ではなく「情報」として見る

数値と体感にズレがあるとき、「どちらかが間違っている」と考える必要はないと思います。
以前、健康データを「視点」として見るという記事で書いたように、数値は「判断」を下すためのものというより、自分を理解するための「視点」として捉えることもできます。
数値が示しているのは、ある時点での体の一側面。体感が伝えているのは、数値では捉えきれない全体的な感覚。
どちらも、自分の体を知るための情報源として価値があります。
「正常なのにおかしい」と思う必要はなくて、「基準範囲内ではあるけれど、自分にとっては何か違うのかもしれない」という捉え方ができると、少し楽になるかもしれません。
自分にとっての「正常」を知る手がかり

全国健康保険協会でも勧められていることですが、同じ検査を経年で比較することで、自分にとっての傾向が見えてきます。
去年より上がったのか、下がったのか。どのくらいの範囲で変動しているのか。
こうした「自分の中での変化」は、集団の基準範囲だけでは見えてこない情報です。
健康診断の結果を保存しておいて、毎年並べて見てみる。
それだけでも、自分の体のパターンが少しずつ見えてくることがあります。
体感を言語化してみる価値

もうひとつ、体感のほうも丁寧に扱ってみる価値があると思います。
「なんとなく調子が悪い」を、もう少し具体的にしてみる。どんな場面で、どんなふうに感じるのか。それはいつ頃から続いているのか。
言語化してみると、漠然とした不調が少し整理されることがあります。
そして、もし医師に相談する機会があったときに、伝えやすくなります。
主観的な体調と客観的な検査値、その両方が健康を理解するために重要だという考え方は、医学的にも共有されつつあります。
どちらか一方だけでなく、両方を手がかりにしていく。そんなアプローチがあってもいいのではないでしょうか。
この記事は個人の経験と考え方を共有するものであり、医療アドバイスではありません。
健康診断の結果について気になることがある場合は、医師にご相談ください。

