「アイデアが浮かばない」「どれも似たような提案になってしまう」
──そんな悩みを抱えるデザイナーやクリエイターは少なくありません。
けれど、それは“センスがない”からではなく、思考の観察方法が単調になっているからです。
デザイン思考の基本は、「観察」「発散」「収束」。
この3つのステップを使いこなせば、誰でも創造的に問題を再定義し、新しい視点で発想できるようになります。
この記事では、発想力を構造的に鍛えるための“型”を、デザイン思考の流れに沿って解説します。
なぜ「発想力」はデザイン思考で鍛えられるのか?

多くの人が「発想力=ひらめき」だと考えがちですが、実際には観察力と再構成力の組み合わせです。
デザイン思考では、課題をいきなり解決しようとせず、「なぜそれが問題なのか?」を掘り下げることから始めます。
たとえば、
「このボタンを押しやすくするには?」
という問いを、「そもそもなぜ押す必要があるのか?」に変えるだけで、まったく違う解決策が見えてきます。
つまり、良い発想とは、良い問いの立て方。
デザイン思考は、その「問いを見直す力」を鍛えるための実践的な思考法なのです。
デザイン思考における3つの発想ステップ

① 観察(Observe):問題を“見直す”ためのマインドマッピング
アイデアは、現場の“観察”から生まれます。
ただ見るのではなく、「なぜ」「どうして」と掘り下げて観察するのがポイントです。

💡実践ワーク:マインドマップで現象を分解する
- 中央に課題を書く(例:「ユーザーが離脱している」)
- 外側に原因を書き出す(例:「情報が多い」「ボタンが遠い」「目的が不明確」)
- さらに「なぜ?」を3回繰り返す
これにより、“UIの見た目”ではなく“体験設計の本質”が見えてきます。
観察とは、見えている問題を構造的に整理するプロセスなのです。
② 発散(Diverge):思考の壁を壊すブレインストーミングと逆発想法
次は、観察した情報をもとに思考を広げるステップです。
ここでは評価をいったん保留し、自由に発想を出していきます。

ブレインストーミングのコツ
- 「否定しない」をルールにする
- 「量より質」を意識せず、“質は量から生まれる”を信じる
- 制限時間を設ける(例:5分で10個出す)
さらに、「逆発想法」を組み合わせると効果的です。
たとえば「最高のUIを作る」ではなく「最悪のUIを考える」。
“避けるべき条件”が浮かび上がり、自然と改善アイデアが導かれます。
③ 収束(Converge):6つの帽子思考法でアイデアを構造的に評価する
発散したアイデアを整理するには、“多視点”での評価が欠かせません。
そのための有効なツールが「6つの帽子思考法」です。

6つの帽子思考法(Six Thinking Hats)
| 帽子の色 | 視点 | 目的・特徴 | 活用のポイント |
|---|---|---|---|
| 🏳️ 白い帽子 | 事実・データ | 客観的な情報・数値・事実を整理する | 感情を排して、根拠となるデータだけを洗い出す |
| ❤️ 赤い帽子 | 感情・直感 | 感じたこと・直感的な印象を言語化する | 理由を求めず「なんとなく嫌」「好き」もOK |
| ⚫ 黒い帽子 | 否定・リスク | 問題点やリスクを検討する | 「なぜうまくいかないか?」を冷静に分析する |
| 💛 黄色い帽子 | 希望・価値 | メリットや可能性を探る | 「このアイデアの価値は?」をポジティブに考える |
| 💚 緑の帽子 | 創造・代案 | 新しい発想や代替案を出す | 「他にできる方法は?」「思い切った発想は?」 |
| 💙 青い帽子 | 制御・整理 | 全体を俯瞰し、議論の流れを管理する | 他の帽子の使い方を指揮し、思考のバランスを取る |
💡チームで使うときは、
「今日は黒い帽子だけで考えよう」といった視点の切り替えルールを設けると、議論が感情的にならず、建設的に進みます。
思考法を日常に落とし込む3つの習慣

発想力は一瞬のひらめきではなく、習慣の積み重ねで磨かれます。
1.観察する習慣を持つ
- 通勤中やカフェで「なぜこの配置なのか?」を考えてみる
- 他人の選択を見て「この人は何を基準に判断したのか?」を推測する
「問い」を持って観察することで、世界の見え方が変わります。
2.ノートに“問い”を残す
「どうすれば?」ではなく「なぜ?」を主語にした問いを書きためる。
例:「なぜ人は“完了”ボタンを見ると安心するのか?」
→ 数日後、別の文脈で見ると新しい発見が生まれます。
3.異分野の構造を観察する
アート・音楽・建築・自然など、異分野の構造に注目してみましょう。
「このリズムの構造をUIに転用できないか?」など、アナロジー発想が生まれます。
実践テンプレート:デザイン発想の3ステップ
| ステップ | 目的 | 思考法 | 実践のポイント |
|---|---|---|---|
| Step 1 | 問題を再定義する | マインドマッピング | 表層的な問題を“構造”として捉える |
| Step 2 | 発想を拡げる | ブレインストーミング・逆発想法 | 限界を一度壊す |
| Step 3 | アイデアを絞り込む | 6つの帽子思考法 | 多視点で価値を見極める |
まとめ:発想力とは「見直す力」である

発想力を高めるということは、
「どう作るか」ではなく「なぜ作るか」を見直す力を育てることです。
- 観察で「本質的な問題」を見つけ、
- 発散で「制約を壊し」、
- 収束で「価値ある答え」を導く。
この流れを日常の思考習慣に取り入れることで、
あなたのアイデアは“ひらめき”ではなく“構造的創造”へと進化します。
今日からできる一歩
気になるデザインをひとつ選んで「なぜこうなっているのか?」を5回繰り返してみよう。
それが、発想力を「才能」から「スキル」に変える第一歩です。

