「そろそろ、現場から退く時かもしれない―」
15年以上にわたって現場でweb制作、そのうち10年近くは経営と制作の二足のわらじで走り続けてきた自分は、ここ数年そんな思いを抱えていました。
小さいチームではありますが、コロナ禍も乗り切りここ数年で人数も増えつつあります。
マネジメントの重要性もだんだん大きく感じるようになってきました。
さらに人材育成にもより多くの時間を割くべきだろうな。
現場での制作者としてではなく、経営者としてそんな決断を迫られる時期が近づいているように感じていました。
しかし、そんな自分の決断を180度覆したのは、急速な進化を遂げるAIとの出会いです。
これまで時間的・技術的な制約で諦めていたアイディアが突然手の届く場所に現れた気がしたのです。
今日は、AIによって一人のクリエイターの可能性が爆発的に広がった時代に、なぜ自分が制作の現場に残ることを選んだのか、ざっくりと書いていきたいと思います。
人材・お金・時間の悩みを解決してくれる魔法のツール?
経営者として組織を今よりも強くマネジメントすることで、より多くのクライアントの課題を解決できる可能性を広げることにつながるでしょう。既存のクライアントへの安心や価値を高めることにもつながるはずです。
しかし、その一方で、自分の気持ち的には「まだ現場でやりたいことがあるなぁ」という思いが燻っていました。
今まではWeb制作の中でも広告やブランディングのためのサイトを作ることが多かったのですが、エンドユーザー向けのWebサービスやアプリケーションを開発したい、新しい技術で何かを生み出したい、そんな制作者としての欲求が残っていました。
何かのスキルに固執することなく、ディレクション、デザイン、実装、映像編集などさまざまなことにチャレンジしてきたのも一通り自分でやりたい気持ちが強かったことが理由です。
しかし、やはりWebサービスとなると集中してできるのであれば少人数で可能だと思いますが、既存のクライアントの業務、受託案件をこなしながらの開発となると、やはり優先順位的に後回しになりがちになります。
人数を増やしてでもやるかどうか?の葛藤はありましたが、どうしても作りたい一つの何かがあった訳ではありませんでした。
アイディアが出たらちょっと形にしてみて反応を見てみる。そのくらいの気軽さで色々やってみたかったというのが本音でした。実際は、人材にお金の確保に・・・など色々とやりくりが必要で二の足を踏んでいました。
そんな自分の背中を押してくれたのが、急速な進化を遂げるAIの存在です。
人材・お金・時間の確保で二の足を踏んでいた自分のモノヅクリの可能性を劇的に広げる、まさに魔法のツールだったのです。
転機となったAIツールとの出会い
最初はChatGPTとの出会いでした。
ちょっと話題になっているから触ってみよう!くらいの感覚で色々と試しつつ、制作での活用方法を探っていきました。
AIによる部分的なコードの生成や補完は、さほど驚くべきものではありませんでした。これまでにもGitHub Copilotなどの支援ツールは存在していたからです。しかし、「対話」による問題解決の手法は、まさに目から鱗が落ちる体験でした。
「こんな機能を実装したいんだけど、どうすればいい?」 「このエラーの原因がわからないんだけど」 「もっと効率的な方法はない?」
まるで経験豊富で優秀なエンジニアと対話しているような感覚で、技術的な課題を解決できる。しかも、その回答の質は期待をはるかに超えるものでした。
エンジニアだけではありません。デザイナー然り、ライター然り、様々なプロフェッショナルに囲まれたような感覚でした。
そして、Claudeとの出会いが続きます。より精確で詳細な技術的アドバイス、より深い文脈理解。特に、システム設計やアーキテクチャに関する議論では、ChatGPTとはまた違った視点での示唆を得ることができました。
開発環境でもAIの波は押し寄せていました。Cursorを使い始めてからは、コーディングの速度が劇的に向上。
特に、自分が得意としないバックエンドの部分を試しに開発してみたらその効果は顕著でした。
これまで他の開発者に依頼せざるを得なかった領域も、AIのサポートがあれば、ある程度は自分でカバーできる。その可能性が見えてきたのです。
デザイン面でも、v0の登場は衝撃的でした。「こんなUIを作りたい」というプロンプトから、実用的なコードが生成される。自分でやる時はよかったのですが、誰かにお願いするための準備や指示、フィードバックの時間が劇的に減ります。また、これまでフロントエンド開発者とデザイナーの綿密な連携が必要だった工程が、大幅に効率化される可能性を感じました。
これらのAIツールとの出会いは、一つの重要な気づきをもたらしました。
「今まで時間的・技術的な制約で諦めていたプロジェクトが、実現可能になるかもしれない」
アプリケーション開発という新たな展望
「今なら、気軽にアイデアを形にできるかもしれない」
長年、頭の中で眠っていたプロジェクトの数々が、突如として現実味を帯びてきました。
これまで「いつか、時間ができたら」と先送りにしていた構想が、AIの力を借りれば、驚くほど短期間で形にできそうな気がしてきたのです。
特に大きかったのは、バックエンド開発に対する心理的ハードルの低下です。
APIの設計やデータベースの構築、セキュリティの実装―。Webでも広告やブランディング用のサイトを専門としてきているので、これらは常に他の開発者の助けを借りる必要があり、リソースやコスト面で躊躇する最大の理由でした。
しかし、AIの支援があれば、その壁は確実に低くなります。完璧とは言えないまでも、プロトタイプレベルなら、驚くほど短時間で実装できるようになりました。
例えば、アイデアからプロトタイプまでのスピードが以前なら、
- 仕様の検討:2週間
- デザインの作成:1週間
- フロントエンド実装:2週間
- バックエンド実装:3週間
- テストと修正:2週間
といった具合に、最低でも2ヶ月必要な工程が、AIの支援により半分以下の時間で実現できるといっても大袈裟ではないように思えます。
AIによるコード生成は、新しい学びの機会も提供してくれました。
生成されたコードを読み解き、修正を加えていく中で、自然と新しい技術やベストプラクティスに触れることができます。
まさに、実践的な学習環境が手に入ったような感覚です。
そして何より、この変化がクリエイターとしての熱を上げるきっかけになっているように思えます。
技術的な制約が減ることで、より本質的な部分、つまり「どんなサービスを作りたいのか」「どんな価値を提供できるのか」といったことに、より多くの時間を費やせるようになるからです。
これからはクリエーターとして、もっと作りまくる予定
「経営に専念するのは、まだ早い」ではなく、今のタイミングであればがっつり制作だ!
「これほど面白い時代に、現場を離れるのはもったいない」
確かに、経営者として組織の成長に専念することには大きな意義があるのですが、AIによって個人の創造性が解き放たれつつある、まさにこのタイミング。クリエイターとして、この革新的な波に乗らない手はないと思えたのです。
むしろ、今までよりもさらに深く制作に関わろうと思いました。
これまで時間的制約で諦めていた挑戦的なプロジェクトに着手できる。苦手分野をカバーできる。アイデアの検証サイクルを大幅に短縮できる。そして何より、クリエイターとしての創造性により多くの時間を費やせるようになった。ということです。
間違いなく、変革期の入り口に立っています。
新しいものを生み出していく。
そのために、自分はもう少しだけ、いや、もっとがっつりと、制作の現場に身を置いていこうと思います。
そして、改めて思ったのは、「経営か制作か」という二者択一の発想自体が、もはや古いのかもしれないということです。
変化の途中で新しい役割の在り方が生まれつつある。その可能性を、身をもって示していけたらと思っています。
おわりに
15年以上のキャリアの中で、技術の進化を数多く目にしてきました。
しかし、今私たちが目の当たりにしているAIがもたらす変化は、自分の経験の中では少し大きいものかなと感じています。
「経営に専念するべきか」という問いに悩んでいた自分の背中を押してくれたのは、皮肉にも、その悩みの原因となっていた「時間の制約」を解決してくれるAIでした。技術的な制約が取り除かれ、アイデアの実現スピードが加速する中で、クリエイターとしての熱がさらに大きくなりました。
技術的な実装の詳細に囚われすぎることなく、より本質的な創造性に焦点を当てながらモノづくりができる。AIという強力なパートナーと共に、より大きな価値を生み出していける気がします。
最後に、自分と同じように悩んでいるクリエイターの方々に伝えたいことがあります。
今は、立ち止まるべき時期ではないかもしれません。AIが脅威と感じる時もあるかもしれませんが、どちらかというとクリエイターはAIを活用しいていくことで楽しいことが多く、大きくすることができる気がしています。
共に新しい可能性を探っていけたらと思います。