AI時代のプロ論|“判断力”と“責任”が価値を生む働き方

私はこれまで17年間、Webクリエイターとして仕事をしてきました。

デザイン、実装、ディレクション──興味の赴くままに多様な業務に取り組んできたことで、スキルや視点も少しずつ磨かれてきたと思います。

最近、「AIで仕事が楽になる」「もうデザイナーやプログラマはいらない」──そんな言葉をよく耳にします。

実際、自分でもAIツールをいろいろと試す中で、驚きも脅威も感じました。

しかし、同時になんだか言葉にできない違和感もありました。

AIは、できなかったことを可能にするツールでもあり、できる人にとっては、作業を楽にしたり、クオリティを高めるためのツールでもある。どちらの使い方も正解であり、だからこそプロは「どう使うか」を問われているのだと思います。

この記事では、そうした実体験から見えてきたAIとの向き合い方、そして「楽をする」ではなく「本質に近づく」ためのヒントを、具体的な事例を交えて記録しています。

「AIを使えば楽になる」という考え方に、最初は自分も乗っていました。

でも数ヶ月使ってみて、便利さは確かにあるけど、そのままでは“いいもの”は生まれにくい。

結局、AIは使い方によって「本質に集中できる道具」になるのだと気づいたのです。

プロは、AIは「楽をする」ためではなく「本質に集中する」ための道具として使う

それなりのアウトプットが生まれる罠

思いつきでAIに指示しても、かなり「よさげ」なものが出てきます。

そこで合格という場合もあればそうでないケースもあるでしょう。

本当に伝えたいことや、深みのある表現は、こちらの意図とAIの出力を丁寧にすり合わせないと出てきません。

プロに求められるのは「AIの出力をマネジメントする力」。

さらに言えば、その出力をどう解釈し、どこを修正し、どう仕上げるか──出力の“その先”を担保できることこそ、これからのプロの重要な役割になっていくのではないかと思います。

AIを使ってデザインを100回試行するようなことが必要なのかも

たとえば、画像生成で納得のいく一枚を得るために、プロンプトを100回以上変えて試す。

たとえば、UIデザインの検討でも、配色や余白、見栄えの違いを30パターン以上比べてみる。

こうした「量で見る」というアプローチこそ、もしかするとプロと非プロを分ける差別化ポイントになるのかもしれません。

これは決して「楽をしている」のではなく、AIの生成スピードを活かして“人間には不可能な試行回数”を実現している──ということだと考えています。

実際にFigmaでlayermateというAgent型のプラグインを活用しつつ、MidjourneyやChatGPTと連携してUIの方向性を探りました。100画面以上作ってみたと思います。

効果的だったのは、画面ごとやトンマナを手動では不可能な回数試行錯誤できたことでした。

たとえば「ユーザーが安心感を感じられる配色は?」という問いに対して、AIが提案してくれた配色や参考UIを何パターンも試すなどです。

自分の頭の中ではなかった色合いやバランスがでることも多く自分の手で修正を重ね、最終的に「これだ」と思えたのは10案目くらいでした。

会話と修正を繰り返した結果ですが、AIがなかった場合この試行錯誤の回数は実現不可能だったはずです。
これは明らかに「楽をした」とは言えず(むしろある意味きつかった)、「本質にたどり着くためにAIを使った」体験だったと今でも思います。

「これでいい」が生むプロの危機感

AIで“できてしまう”時代に問われるプロの役割

非エンジニアがAIを使って、ちょっとしたシステムやツールを自作できる時代になりました。そして実際、それで目的が果たせるケースも少なくありません。試しに動かしてみたいときや、自分の中でアイディアを形にしてみたいときなどには、すごく助けになる存在です。

ただ、そうした場面を超えたときに見えてくる課題もあります。

品質の担保、保守性、スケーラビリティ、ユーザビリティ……そうした“見えづらい部分”こそが、実は使い続ける上での鍵になります。

たとえば、実際にユーザーに継続的に使ってもらうための工夫や、保守・改善がしやすい設計、あるいはちょっとした使い勝手の差……。

そうした部分にこそ、プロの技術や知見が必要になると感じています。

ここ最近では、フロントエンド開発に取り組んだ約4ヶ月の間、VueやNuxtのコードをCursorやClaude Codeを活用して実装することが多々ありました。

新しいパッケージへの使い方やフレームワークの理解不足など、対話形式で補完してくれたことで“書けてしまう”状況がありました。

でもそのコードがベストなのか、安全性は担保されているのか、そうした判断はやはり自分自身に返ってくる。
動作はする、記述方法もベストプラクティス。ただ、このプロジェクトではこの組み方、書き方はしない。
といった微妙なところへの修正は適宜必要になりました。

クオリティとスピードに特化するという戦い方

「この時間でこの質」がプロの仕事。AI時代でもこの軸は変わりません。むしろ、より強調されていくように感じています。

AIによって、誰でも一定レベルのアウトプットが高速に作れるようになった今、ただ“出すだけ”では差がつきにくくなっています。そんな中で求められるのは、「限られた時間でどれだけ質を出せるか」という一点です。

たとえば、AIが出した草案を数分で読み解き、どこを伸ばし、どこを削るべきか判断できる力。あるいは、複数案を比較したうえで、最も目的に適した一案を即座に仕上げられる判断力と編集力。

これは、経験を重ねたプロだからこそ発揮できる強みです。そしてこの「スピード×クオリティ」の掛け合わせこそ、AI時代の“信頼される仕事”の条件になっていくのではないかと感じています。

今までも「スピード×クオリティ」というのは大事ではありましたがさらに加速した印象です。

プロであり続けるために必要なこと

アイディアと行動力が価値になる時代

アイディアは、AIによって“形にできる”可能性が飛躍的に広がりました。以前なら「思いついても自分では実現できない」ことが多かったかもしれませんが、今ではプロンプトを工夫すれば、画像も、コードも、UIモックも作れてしまう。

実際、一人でできる範囲は劇的に増えていて、これまでなら何人も必要だったチーム作業が、今では少人数──あるいは一人でも可能になってきています。これはものづくりのハードルが下がったことの恩恵であり、大きな変化だと感じています。

だからこそ、これからの時代は「アイディアを持っている人」だけでなく、「それを形にし、さらに磨ける人」が求められていると思うのです。

プロとして問われるのは、そこからどう着地させるか。どこでGOを出し、どこで修正を入れ、最終的に“納得できるクオリティ”へ持っていけるか──その力こそが、これからの大きな差になるはずです。

AI時代でも変わらない「判断と責任」

AIは、複数の案やアイディアを高速で提示してくれます。けれど、それをどう選び、どう仕上げるか──その最終判断は、やはり人間に委ねられています。

自分自身も、記事執筆やデザイン、実装などで、ほぼ毎回AIの助けを借りています。でも最終的に「これでいこう」と決めるときには、必ず“自分の判断”を通すようにしています。

「この表現で本当に伝わるか?」「この構成は読み手にとって自然だろうか?」──こうした問いは、AIが登場する前と変わらず、今も自分にとって欠かせないプロセスです。

AIがあってもなくても、この“問い直す姿勢”こそが、プロとしての「判断力」や「責任感」の本質なのだと感じています。

本質的な価値を見極める目線

最終的に、AIでは代替できないのは「何を選ぶか」「なぜそうするか」という判断の部分にあると感じています。

どんなに高精度な出力が得られたとしても、それが「今このプロジェクト、この文脈、この読者、この目的」に本当に合っているかどうかを見極めるのは、結局人間の役割です。

たとえば、複数の選択肢の中から“どれを活かし、どれを捨てるか”を選ぶとき。それは技術的な正しさだけでなく、文脈的な整合性や、届けたい想い、使う相手の気持ちまで含めて考える必要があります。

この「なぜ、それを選んだのか?」という問いにきちんと向き合い、説明できるかどうか。それが、AI時代におけるプロとしての真価であり、自分の存在価値なのだと思います。

プロがチームで取り組む意味について

AIによって一人でできることが増えた時代において、「あえてチームでやる意味」もまた、見直されつつあるように思います。

今は、個々のスキルが高く、しかもAIの力を借りればアウトプットの敷居はどんどん下がります。

でもだからこそ、視点の違いや価値観のぶつかり合いから生まれる“人間的な化学反応”──それがチームでやる意義なのかもしれません。

ひとりでやると見落とすこと、ひとりでは想像もしなかったアイディア。

それらは、他者との対話や共同作業の中でこそ育つのだと思います。

これはまだ自分の中でも整理しきれていない問いですが、きっとこれからのプロフェッショナルには、「チームで取り組む意味」を自分なりに言語化する力も求められるのではないでしょうか。

まとめ:AI時代でも変わらない「プロの軸」

AIの進化によって、一人でも多くのことができる時代になりました。アイディアを形にするスピードも精度も飛躍的に上がり、私たちの働き方や作り方は確実に変わっています。

でも、だからこそ「何を作るか」「なぜそれを選ぶのか」、そして「どんな価値を提供するのか」といった問いに、これまで以上に向き合う必要があると感じています。

AIを活かすことでこそ、私たち自身の“プロとしての軸”が問われる。その軸とは、手を動かすだけでなく、判断し、責任を持ち、価値を生み出す力なのだと思います。

この変化の中で、自分自身もまた「どう在りたいか」を問い直しながら進んでいきたい──この記事は、そのための記録でもあります。