デザインシステムの構築において、primitive tokenからsemantic tokenへの体系化は重要な基盤となります。この記事では、その必要性とメリット、効率的な実装方法について解説します。
Primitive Tokenとは
デザインシステムの最小単位となる基礎的な値のことを指します。
- カラーパレット(hex値やrgba値)
- スペーシング(px、rem等の具体的な数値)
- タイポグラフィ(フォントサイズ、行間等)
- ボーダー(幅、スタイル、色)
- シャドウ(ブラー、スプレッド等)
Semantic Tokenの役割
Primitive tokenを目的や文脈に応じて抽象化した値です。
color.primary
→button.background
spacing.4
→component.padding
radius.m
→card.radius
なぜPrimitiveからSemanticへの段階が必要か
1. 保守性の向上
- primitive値の一括変更が容易
- ダークモードなど、テーマ切り替えの実装が簡単
- コンポーネント間の一貫性維持
デザインシステムの長期的な運用において、適切な階層構造は保守性を大きく向上させます。
プリミティブトークンをセマンティックトークンの基盤として設計することで、デザインの更新や変更に柔軟に対応できます。
例えば、ブランドカラーの微調整が必要になった場合、プリミティブトークンの値を更新するだけで、それを参照するすべてのセマンティックトークンとコンポーネントに変更が反映されます。
また、ダークモードのような異なるテーマの実装時も、セマンティックトークンの参照先を切り替えるだけで済むため、実装の労力を大幅に削減できます。
このような構造により、デザインの一貫性を保ちながら、効率的なメンテナンスが可能になります。
2. 設計意図の明確化
- 値の使用目的が名前から理解可能
- チーム間のコミュニケーションが円滑に
- 誤用を防ぎやすい
セマンティックトークンの導入は、デザインシステムにおける意図と目的の明確化をもたらします。
色やスペーシングの具体的な値ではなく、その使用目的や文脈に基づいた命名により、デザイナーとエンジニアの間でより本質的なコミュニケーションが可能になります。
例えば、「#2196F3」という具体的な色コードについて議論するのではなく、「プライマリーアクション」という文脈で議論することで、デザインの意図がチーム全体で共有しやすくなります。
これにより、新規メンバーの参画時やチーム間での引き継ぎ時も、スムーズな理解と適切な実装が促進されます。
3. 再利用性の向上
- 同じ文脈で使用される値をまとめて管理
- 新規コンポーネントの作成が効率化
- デザインの一貫性担保
セマンティックトークンを介したデザイン要素の抽象化は、効率的な再利用を可能にします。
同じ目的で使用される値がセマンティックトークンとしてまとめられることで、新しいコンポーネントの作成時に適切なトークンを選択しやすくなります。
これは単なる効率化だけでなく、デザインの一貫性を自然に維持することにもつながります。
また、プロジェクト間でのデザイン資産の共有や、新規プロジェクトへの展開もスムーズに行えるようになります。
結果として、デザインシステム全体の品質向上と開発速度の向上を両立することができます。
効率的な実装方法
1. 階層構造の設計
{
"color": {
"primitive": {
"blue-500": "#2196F3"
},
"semantic": {
"primary": "{color.primitive.blue-500}"
},
"component": {
"button": {
"background": "{color.semantic.primary}"
}
}
}
}
- プリミティブレイヤー:具体的な値の定義
- セマンティックレイヤー:意味づけされた値
- コンポーネントレイヤー:実際の使用場所
デザイントークンの階層構造は、効率的な管理と運用の基盤となります。
最下層のプリミティブレイヤーでは、カラーパレットやスペーシングなどの具体的な値を定義します。
中間層のセマンティックレイヤーでは、これらの値に意味づけを行い、デザインの意図を反映します。最上層のコンポーネントレイヤーでは、実際のUIコンポーネントでの使用方法を定義します。
この3層構造により、値の変更や管理が体系的に行えるようになり、デザインシステムの拡張性と保守性が向上します。
2. 命名規則の統一
- プリミティブ: 具体的な特性を示す名前
- セマンティック: 用途や意味を示す名前
- コンポーネント: 使用箇所を示す名前
デザイントークンの命名規則は、チーム全体での効率的な利用を支える重要な要素です。
プリミティブトークンには視覚的な特徴を直接表す名前を、セマンティックトークンにはデザインの意図や目的を示す名前を、コンポーネントトークンには具体的な使用箇所を示す名前を付与します。
一貫した命名規則を導入することで、トークンの目的が明確になり、チーム間でのコミュニケーションもスムーズになります。
3. ドキュメント化
- 各トークンの使用目的
- 適用例
- 制約事項
効果的なドキュメント化は、デザインシステムの持続可能性を高めます。
Figmaのスタイルガイド機能を活用し、視覚的な例とともにトークンの使用方法を説明することで、チームメンバーの理解を促進します。
新しいトークンの追加時には、その目的と使用コンテキストを明確に記録し、チーム内でのレビューを通じてドキュメントの品質を維持します。
また、定期的な更新により、情報の鮮度を保ちます。
メリットの最大化のために
1. チーム全体での認識合わせ
- デザイナーとエンジニアの共通理解
- 命名規則の統一
- 使用ルールの明確化
デザインシステムの価値を最大限に引き出すには、チーム全体での共通認識が不可欠です。
定期的なワークショップを通じて、トークンの使用方法や命名規則についての理解を深め、プロトタイプを用いた実装フローの確認を行います。
デザイナーとエンジニア間で発生しやすい課題を事前に特定し、解決策を準備することで、スムーズな協働が可能になります。
2. 段階的な導入
- 基本的なprimitive tokenから開始
- 使用頻度の高いコンポーネントから適用
- フィードバックを収集し改善
デザイントークンの導入は、段階的なアプローチが効果的です。
まず基本的なプリミティブトークンから始め、ボタンやカードなど頻繁に使用されるコンポーネントを優先的にトークン化します。
各段階で発生する課題を記録し、次のイテレーションで改善することで、スムーズな移行が実現できます。
チームメンバーからのフィードバックを積極的に収集し、使いやすさの向上につなげます。
3. メンテナンス計画
- 定期的な見直し
- 不要なトークンの整理
- 新規要件への対応
デザイントークンは生きた設計資産として、継続的なメンテナンスが必要です。
四半期ごとにトークンの使用状況を確認し、必要に応じて整理や統合を行います。
新しいデザイントレンドやブランドの変更にも柔軟に対応できる構造を維持し、トークンの使用頻度や影響範囲を可視化することで、効率的な改善計画を立てることができます。
適切なバージョン管理により、大きな変更による影響を最小限に抑えることも重要です。
まとめ
Primitive tokenからsemantic tokenへの体系化は、デザインシステムの堅牢性と拡張性を高める重要な要素です。
適切な設計と運用により、開発効率の向上とデザインの一貫性維持を実現できます。